第58回日本作業療法学会

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[PN-8] ポスター:地域 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PN-8-7] 住民同士で取り組める転倒予防対策

有光 一樹1, 金久 雅史1, 杉本 徹2, 岡野 真也3, 公文 康輔3 (1.高知リハビリテーション専門職大学, 2.リハビリテーション病院すこやかな杜, 3.須崎くろしお病院)

【はじめに】
高齢者の歩行は,身体機能の低下を補う手段として,道路に合わせて速度の制御や支持基底面の拡大など運動学的に少しずつ変化していく.その変化による歩行様式が継続することは,下肢筋力や歩行姿勢にも影響し加齢変化に伴う転倒要因にもなる.
地域高齢者の多くは,いつまでもその地域に住み続けたいと話し,健康を維持するため,自助・互助努力を求められているが,加齢変化に伴う転倒リスクは専門職の助言が必要と感じている.
そこで今回,高知県仁淀川町において住民主体で展開されている一般介護予防事業の短期集中型サービス「ハツラッツ」を通して,住民同士で取り組める転倒予防を2か月間実践した結果を以下に報告する.なお,この研究は,令和4年度公益信託高知新聞・高知放送「生命(いのち)の基金」から助成を受け,東京大学倫理審査専門委員会より審査番号23-234により承認された研究である.
【方法】
 対象は,「ハツラッツ」に参加している地域住民10名とし,平均年齢80.5±6.31歳であった.
 「ハツラッツ」は週に2回実施されており,1か月間で8回実施される.調査期間は2か月間とし,8回実施した時点で1か月評価,16回実施した時点で2か月評価を実施した.
 研究課題は,2つの歩行路を「ハツラッツ」支援時に1回以上歩く課題である.2つの歩行路は,①バランス歩行,②渡り歩行と設定した.
①バランス歩行について,路面は高さ5cm,長さ3m,幅が30㎝,25㎝,20㎝,15㎝,10㎝の5種類の歩行路を設定した.5種類は実践回数に応じて幅を狭くし,難易度を調整した.歩行路は2つのプラットホームの間で連結し,3m渡り切った後プラットホームから逸脱しないように説明した.
②渡り歩行について,路面は高さ5㎝,長さ3mの歩行路の両サイドに8個のプラットホームを庭石のようにランダムに連結した.
 開始時と開始から1か月後,2か月後それぞれについて,左右の平均足指筋力,開眼時の重心動揺計による外周面積,単位軌跡長,総軌跡長,足圧バランス計による前後左右方向の重心移動量,歩容測定ツールAMUnitによる歩行速度,歩幅,歩隔を計測し,比較検定を行った.統計処理は多重比較検定を実施し,有意水準の検定としてTukey-Kramer法を用いた.有意水準は5%未満とした.
【結果】
 左右の平均足指筋力は開始時と1か月後,2か月後において有意な向上を認めた.重心動揺計は有意差を認めなかった.足圧バランス測定の平均は開始時と1か月後,2か月後において有意な向上を認め,前と左右方向に有意な向上を認めた.歩行評価について歩行速度,歩幅は有意差を認めなかったが歩隔は開始時,1か月後と2か月後において有意な減少を認めた.
【考察】
 今回,住民同士で取り組める転倒予防対策として2種類の歩行路を設定し,足指筋力,足圧バランス,歩隔において有意に改善する結果となった.
 1つ目のバランス歩行は水平方向の重心が制御されることによって歩行姿勢が安定し,歩隔の減少につながったことが考えられた.2つ目の渡り歩行は,非連続であるために歩幅の異なる路面を歩行することになる.視覚で飛び石の場所を判断し,合目的的に一歩を踏み出す点から,重心を移動させる動作が繰り返し反復され,重心移動量の有意な増加につながったと考えられる.
 今後,地域の過疎化は益々増加傾向にあり,住民達で取り組む転倒対策が必要になると感じる.そのため,今回のように専門職が関与しなくても住民同士で取り組める転倒予防対策に対してエビデンスを検証していくことが重要であると感じた.