[PN-8-9] 施設内における余暇時間の人的環境設定によってBPSDが減少した症例
【はじめに】
認知症施策推進総合戦略では認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進として住居の確保例を示しており,そのうちの一つとしてサービス付き高齢者向け住宅が挙げられている.しかし,そのような施設入居中であっても認知症者の行動・心理症状(BPSD)が原因で転居を検討する事例もある.また認知症者は転居により,身体・心理的な負担から機能低下が起こると報告されている.今回,サービス付き高齢者向け住宅で施設長の役割を担う機会があり,認知症のBPSD増悪が見られた事例に対して,作業療法士の視点で,作業提供を行うことで他入居者とのコミュニティを形成し,施設生活を継続できた事例を経験したので報告する.なお発表に関して家族に十分に説明し,同意を得ている.
【事例紹介】
90歳代女性,診断名はアルツハイマー型認知症,右変形膝関節症術後.家族構成は長男と長女で県外在住.自宅で生活していたが帯状疱疹を発症後,入院を契機にX年Y月に施設入居となる.介護保険サービスはデイサービスを週5回,訪問介護を週1回利用している.COVID-19流行により,施設では面会制限の期間があり,長男と長女による面会の機会はない.
【作業療法評価】
直接的介入がなく,簡便な行動観察評価を実施.長谷川式認知症スケール(HDS-R)4/30,Vitality Index(VI)7/10,Dementia Behavior Disturbance scale(DBD) 47/112,Functional Independence Measure(FIM) 59/126 (m-FIM48,c-FIM11).入居時から徐々に記憶障害や失語等の症状が見られ,他入居者とは意思疎通に難渋することが増加した.BPSDの具体例として,弄便行為,夜間の徘徊があった.
【経過と結果】
1期目(1日~7日)介護サービス提供時間外にBPSDが見られることから余暇時間に創作活動を提供した.しかし,サービス付き高齢者向け住宅は訪問型介護サービスを提供することが想定される施設の為,作業中は見守ることができない体制であった.そのため,事例は作業に集中することができず,落ち着かない様子で廊下を徘徊する様子が見られた.職員を見かけると「どうしたらいい」「なんもわからん」など悲観的な発言が聞かれた.
2期目(8日~28日)他入居者にも参加を呼びかけ,作業を共有し,入居者同士による見守りが可能な環境を整えた.他入居者との作業の共有により,作業を介しての意思疎通が見られるようになり,徐々に BPSDも減少し,悲観的な発言も減少した.事例のBPSDが見られた場合は,他入居者から職員への報告が自然と増加したため,弄便行為や徘徊に対しての対応が可能となった.作業療法評価ではVI9/10,DBD25/112,FIM 72/126(m-FIM57,c-FIM15)と改善が認められた.
【考察】
認知症者を支えるには多面的な取り組みが必要であり,地域社会とのつながりが重要であると報告されている.しかし,COVID-19流行の感染対策により,施設入居者は様々な社会資源より一時,隔離されていた.今回,他入居者との作業を介した意思疎通により,施設生活における事例と他入居者とのコミュニティの形成がなされ,BPSD改善の一助になったと考える.また認知症者は生活環境を変えることで,BPSDが増悪するとも報告されている.施設で生活している認知症者がBPSDによる転居を検討することもあるが作業療法士は住み慣れた環境での人的,物的環境整備が可能と考える.
認知症施策推進総合戦略では認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進として住居の確保例を示しており,そのうちの一つとしてサービス付き高齢者向け住宅が挙げられている.しかし,そのような施設入居中であっても認知症者の行動・心理症状(BPSD)が原因で転居を検討する事例もある.また認知症者は転居により,身体・心理的な負担から機能低下が起こると報告されている.今回,サービス付き高齢者向け住宅で施設長の役割を担う機会があり,認知症のBPSD増悪が見られた事例に対して,作業療法士の視点で,作業提供を行うことで他入居者とのコミュニティを形成し,施設生活を継続できた事例を経験したので報告する.なお発表に関して家族に十分に説明し,同意を得ている.
【事例紹介】
90歳代女性,診断名はアルツハイマー型認知症,右変形膝関節症術後.家族構成は長男と長女で県外在住.自宅で生活していたが帯状疱疹を発症後,入院を契機にX年Y月に施設入居となる.介護保険サービスはデイサービスを週5回,訪問介護を週1回利用している.COVID-19流行により,施設では面会制限の期間があり,長男と長女による面会の機会はない.
【作業療法評価】
直接的介入がなく,簡便な行動観察評価を実施.長谷川式認知症スケール(HDS-R)4/30,Vitality Index(VI)7/10,Dementia Behavior Disturbance scale(DBD) 47/112,Functional Independence Measure(FIM) 59/126 (m-FIM48,c-FIM11).入居時から徐々に記憶障害や失語等の症状が見られ,他入居者とは意思疎通に難渋することが増加した.BPSDの具体例として,弄便行為,夜間の徘徊があった.
【経過と結果】
1期目(1日~7日)介護サービス提供時間外にBPSDが見られることから余暇時間に創作活動を提供した.しかし,サービス付き高齢者向け住宅は訪問型介護サービスを提供することが想定される施設の為,作業中は見守ることができない体制であった.そのため,事例は作業に集中することができず,落ち着かない様子で廊下を徘徊する様子が見られた.職員を見かけると「どうしたらいい」「なんもわからん」など悲観的な発言が聞かれた.
2期目(8日~28日)他入居者にも参加を呼びかけ,作業を共有し,入居者同士による見守りが可能な環境を整えた.他入居者との作業の共有により,作業を介しての意思疎通が見られるようになり,徐々に BPSDも減少し,悲観的な発言も減少した.事例のBPSDが見られた場合は,他入居者から職員への報告が自然と増加したため,弄便行為や徘徊に対しての対応が可能となった.作業療法評価ではVI9/10,DBD25/112,FIM 72/126(m-FIM57,c-FIM15)と改善が認められた.
【考察】
認知症者を支えるには多面的な取り組みが必要であり,地域社会とのつながりが重要であると報告されている.しかし,COVID-19流行の感染対策により,施設入居者は様々な社会資源より一時,隔離されていた.今回,他入居者との作業を介した意思疎通により,施設生活における事例と他入居者とのコミュニティの形成がなされ,BPSD改善の一助になったと考える.また認知症者は生活環境を変えることで,BPSDが増悪するとも報告されている.施設で生活している認知症者がBPSDによる転居を検討することもあるが作業療法士は住み慣れた環境での人的,物的環境整備が可能と考える.