[PN-9-10] 訪問リハビリテーションでの在宅生活継続に向けた夫婦への役割支援
【はじめに】役割の有無は日常生活動作(以下,ADL)や手段的ADLと関連し(村田伸,2009),役割の低下・喪失は心理面の低下に影響を与える(Kielhofner,G,2007).今回,在宅生活継続を望む事例と介護者の役割に焦点を当て,訪問リハビリテーション(以下,リハ)を検討したので報告する.なお,本報告にあたり事例・家族の同意を得ている.
【事例紹介】80歳代男性.妻と二人暮らし,息子が月に数回訪問.50歳代から糖尿病,60歳代に脳幹梗塞を発症し軽度右片麻痺となるも,歩行やADLは自立し,家族の一員,趣味人の役割を担っていた.X年に末期腎不全となり,透析治療のためシャントを増設後に四肢の運動機能が低下し歩行困難・ADL低下となる.退院後,転倒頻発,妻の介護負担増加.妻は家庭維持者,友人,趣味人の役割を担っていた.
訪問リハ初期評価(X年+5か月後):左上下肢の筋力低下.Brunnstrom stageは右上肢Ⅲ,手指Ⅳ,下肢Ⅲ.感覚は四肢にしびれ感,感覚鈍麻あり.認知機能・コミュニケーションは問題なし.老年期うつ尺度短縮度(以下,GDS)は11点,作業に関する自己評価改訂第2版(以下,OSAⅡ)は,有能性26点・価値78点,環境の影響16点・価値29であった.ADLは食事自立.他は要介助.日中は臥床傾向で不活発な生活であった.自宅は居室,トイレ,廊下,玄関などに段差あり.事例は妻への介護負担や無力な自分に抑うつ状態となっていた.妻は介護で日課や趣味が遂行できず,介護方法などに悩み,役割緊張状態で疲弊していた.事例の希望は歩行向上,妻の負担軽減.妻の希望は介護・不安軽減,夫の能力向上であった.
【方針】事例の活動,夫婦の役割獲得に支援し,夫婦らしい在宅生活を構築する.
【経過】役割再獲得に向けた移動とADL支援:移動について事例は歩行を希望するも妻は不安.転倒リスクと妻の不安軽減を考慮し,車いすでの駆動と介助方法の指導から開始.並行して歩行補助具を変更し,歩行訓練を実施.訓練時,夫婦に不安な点を聴取し,歩行能力の向上に合わせ,妻に介助指導を実施.ADLは廊下の段差解消と洗面台下のスペースの拡張.トイレ内外に手すりを設置し,トイレの出入りと下衣操作を夫婦に指導.結果,事例の屋内歩行とADLの自立度が向上.数時間であれば留守番が可能となった.妻は介護に余裕ができ,散歩や買い物,友人との交流が可能となり,夫婦関係が良好となった.また,事例は自己効力感が向上し家族の一員の役割を再獲得した.
新たな役割獲得支援:家族での外出に向け,電動昇降椅子と屋外に手すり付き階段を設置し,室内から屋外への動作指導実施.結果,夫婦で買い物や外食等が可能となり,共に趣味人の役割を獲得.また,夫婦の意欲に合わせ,自己トレーニング,歩行方法,健康情報を提供.夫婦で運動するなど新たな趣味を獲得.
【結果】介入から約1年後,在宅生活は継続.事例は歩行・ADLが向上し,心理面がGDS2点,OSAⅡの有能性66点・価値73点,環境の影響26点・価値32点に改善.妻は役割緊張が軽減し,夫婦で役割を再獲得した.
【考察】在宅生活継続には被介護者のADLの維持(大沼剛,2012)や介護負担軽減,良好な家族関係などが必要である(石附敬,2009).今回,夫婦の役割に焦点を当てたことで,事例の活動向上,妻の介護負担軽減へ繋がった.被介護者,介護者を包括的に捉え支援することは,介護者の作業役割と作業行動を適切なものに転換し,被介護者の役割に好影響を与える(笹田哲,1997).在宅生活継続には家族の作業役割を適切にする必要があり,訪問リハは事例だけでなく介護者に対しても実生活の場で直接役割支援ができるため有効であると考える.
【事例紹介】80歳代男性.妻と二人暮らし,息子が月に数回訪問.50歳代から糖尿病,60歳代に脳幹梗塞を発症し軽度右片麻痺となるも,歩行やADLは自立し,家族の一員,趣味人の役割を担っていた.X年に末期腎不全となり,透析治療のためシャントを増設後に四肢の運動機能が低下し歩行困難・ADL低下となる.退院後,転倒頻発,妻の介護負担増加.妻は家庭維持者,友人,趣味人の役割を担っていた.
訪問リハ初期評価(X年+5か月後):左上下肢の筋力低下.Brunnstrom stageは右上肢Ⅲ,手指Ⅳ,下肢Ⅲ.感覚は四肢にしびれ感,感覚鈍麻あり.認知機能・コミュニケーションは問題なし.老年期うつ尺度短縮度(以下,GDS)は11点,作業に関する自己評価改訂第2版(以下,OSAⅡ)は,有能性26点・価値78点,環境の影響16点・価値29であった.ADLは食事自立.他は要介助.日中は臥床傾向で不活発な生活であった.自宅は居室,トイレ,廊下,玄関などに段差あり.事例は妻への介護負担や無力な自分に抑うつ状態となっていた.妻は介護で日課や趣味が遂行できず,介護方法などに悩み,役割緊張状態で疲弊していた.事例の希望は歩行向上,妻の負担軽減.妻の希望は介護・不安軽減,夫の能力向上であった.
【方針】事例の活動,夫婦の役割獲得に支援し,夫婦らしい在宅生活を構築する.
【経過】役割再獲得に向けた移動とADL支援:移動について事例は歩行を希望するも妻は不安.転倒リスクと妻の不安軽減を考慮し,車いすでの駆動と介助方法の指導から開始.並行して歩行補助具を変更し,歩行訓練を実施.訓練時,夫婦に不安な点を聴取し,歩行能力の向上に合わせ,妻に介助指導を実施.ADLは廊下の段差解消と洗面台下のスペースの拡張.トイレ内外に手すりを設置し,トイレの出入りと下衣操作を夫婦に指導.結果,事例の屋内歩行とADLの自立度が向上.数時間であれば留守番が可能となった.妻は介護に余裕ができ,散歩や買い物,友人との交流が可能となり,夫婦関係が良好となった.また,事例は自己効力感が向上し家族の一員の役割を再獲得した.
新たな役割獲得支援:家族での外出に向け,電動昇降椅子と屋外に手すり付き階段を設置し,室内から屋外への動作指導実施.結果,夫婦で買い物や外食等が可能となり,共に趣味人の役割を獲得.また,夫婦の意欲に合わせ,自己トレーニング,歩行方法,健康情報を提供.夫婦で運動するなど新たな趣味を獲得.
【結果】介入から約1年後,在宅生活は継続.事例は歩行・ADLが向上し,心理面がGDS2点,OSAⅡの有能性66点・価値73点,環境の影響26点・価値32点に改善.妻は役割緊張が軽減し,夫婦で役割を再獲得した.
【考察】在宅生活継続には被介護者のADLの維持(大沼剛,2012)や介護負担軽減,良好な家族関係などが必要である(石附敬,2009).今回,夫婦の役割に焦点を当てたことで,事例の活動向上,妻の介護負担軽減へ繋がった.被介護者,介護者を包括的に捉え支援することは,介護者の作業役割と作業行動を適切なものに転換し,被介護者の役割に好影響を与える(笹田哲,1997).在宅生活継続には家族の作業役割を適切にする必要があり,訪問リハは事例だけでなく介護者に対しても実生活の場で直接役割支援ができるため有効であると考える.