第58回日本作業療法学会

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[PN-9] ポスター:地域 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PN-9-2] 家族が行う回想法が認知症高齢者とその家族に及ぼす影響

藤井 大輔1, 今井 あい子2, 三原 貴照3 (1.市立伊勢総合病院 リハビリテーション科, 2.名古屋女子大学 医療科学部 作業療法学科, 3.NPO法人四日市Dサポート)

<背景>回想法は,認知症高齢者の行動・心理症状(以下,BPSD)の改善に加え,実施者側においてはバーンアウト軽減効果などの好影響が報告されている.しかし,これまでに介護家族が回想法を実施した場合の効果は明らかになっていない.そこで本研究では,家族が行う回想法が認知症高齢者とその家族に及ぼす影響を明らかにするため,認知症カフェにて回想法に携わる作業療法士(以下,OTR)の協力のもと,家族が実施できる回想法プログラムを作成し,そのプログラムを用いて介入研究を行った.
<方法>対象は,A市で活動するNPO法人が開催する認知症カフェに参加している認知症高齢者とその家族である.主治医の協力のもと対象者の募集を行った.包含基準は65歳以上,アルツハイマー型認知症の診断を受けている者,重症度がFunctional Assessment Staging of Alzheimer's Diseaseにて4までの者,介護家族が同居している者,BPSDは不安,無関心,活動性低下が中心の者とした.対象者とその家族には,事前に書面と口頭による研究説明を行い,最終的には1家族の同意が得られた.なお,本研究は研究代表者所属の研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:470).回想法プログラムについては,認知症カフェにて回想法を関わっているOTR3名と地域作業療法を担当する大学教員1名で,回想法資料,実施説明書,実施頻度・時間,留意事項等を検討し,プログラムを作成した.介入期間は4週間とし,1日/週(45-60分)で2022年3月から4月に亘り実施した.また,実施状況を把握するため,家族に実施時間の記載を依頼した. 介入前後の評価では,本人の認知機能の評価としてMMSE,BPSDの評価としてDementia Behavior Scale(以下,DBD)を実施した.家族には,介護肯定感の評価としてDementia Caregiver Positive Feeling Scale 21(以下,DCPFS-21)を実施した.また,家族には介入終了後に回想法実施による気持ちの変化を半構造化個別インタビューで調査した.質問項目は,「当事者との関係性の変化」,「自分の変化」,「当事者のBPSD」の変化の3つとした.インタビュー分析には,質的帰納的分析を用いた.分析では,まず文を意味のあるまとまりごとに区切り(切片化),その切片に対してコードを割り当てた.次に,類似したコードをまとめてカテゴリを作成した.
<結果>MMSEは介入前16点→介入後17点,DBDは28点→24点,DCPFS-21は59点→64点に変化した.家族へのインタビューの分析結果では,「当事者との関係性の変化」における最多コード数のカテゴリは「会話が穏やかになった」であった.「自分の変化」の最多コード数のカテゴリは「母と穏やかな会話ができた」,「(母親が)回想できることを知った」であった.「対象者の周辺症状の変化」の最多コード数のカテゴリは「日常での変化はなし」「回想法中は母の表情表出が増えた」であった.
<考察・結語>本研究は1事例を対象とした研究であり一般化は難しいが,DBD,DCPFS-21にて改善が認められ,家族が行う回想法は,当事者の周辺症状や家族の介護への肯定感に良い影響をもたらす可能性が考えられた.また,介入後のインタビューでは,「当事者との関係性の変化」,「自分の変化」において「会話が穏やかになった」,「母と穏やかな会話ができた」でのコード数が多く,回想法の実施を通して,家族と当事者は日常の話題では難しい「穏やかな会話」の時間を得られていたと推察された.また,こうした穏やかに会話する時間が家族における当事者への理解を促進し,介護肯定感の改善にも影響したと考えられた.