[PN-9-5] 「作業背景にOTが気づくことで,上肢機能改善を強く希望する脳卒中後遺症クライエントの活動と参加に変化が得られた事例」
【はじめに】本事例は,利用者(Client;CL)の訴える課題に寄り添い目標を共有しつつも,作業療法士(以下,OT)がチームの目標であった「自宅で安全に過ごせること」の支援を主として介入を行った.CLが目標指向的になるように目標と実施内容の目的を都度共有していたが,課題に対する自発的な反応が引き出せずにいた.課題背景を知るために観察評価と個人因子に着目し介入を進めた結果,共有目標は変更せずに結果としてCLの活動と参加に変化が得られた為,以下に報告する.報告に際し本人,家族からは同意を得ている.【事例紹介】60歳代男性で,病前は市役所に勤務し,退職後は教員をしていた妻と塾の経営を行う予定であった.既往にはアルコール中毒で入院歴あり.要介護2と認定され,継続したリハと自宅生活を安全に過ごす事を目標として,当院訪問リハを利用することとなった.初回評価は,Brunnstrom re-covert stage(以下,BRS)は,左上肢Ⅲ,手指Ⅱ,下肢Ⅴ.個人因子では,やり取りから人見知りと亭主関白な様子が感じられた.介入経過は,当初から「足はいいから塾で教えるために三角定規を使いたい.左手を動かせるようにしたい」であった.三角定規の実用的使用に向けて課題分析を行い,目標の細分化と練習目的を頻繁に確認し,CLが目的指向的でいられるように進行した.しかし,CLは上肢機能改善の希望は聞かれたが,自発的な行動は少ない状態であった.塾での指導の仕事を開始し生活範囲は拡大していたが,その後の経過でCOVID-19に罹患し,全身状態の悪化と廃用によりADL介助量が増大し妻の疲労もあったことから,ブラッシュアップ目的で地域ケア病棟へ入院となった.退院後も課題への希望のみであった.このタイミングでOTはCLがなぜ課題を強く希望するのか,その背景を知ることを重視する必要性を感じた.意志質問紙(以下,VQ)を使用し,課題に対する観察を開始した.語りの際に「なぜ」の部分を深めて聴取をするとCLは饒舌になり,生徒に対する思いが原動力になっている様子に気づいた.生徒に関わる話を同じ場面を共有している妻と振り返り話をすることが,楽しみな時間であったり,塾の経営に関わる事務仕事を妻と協業したりすることも大切していることが分かった.その後は毎回の訪問リハで生徒たちとのエピソードや行っている事務作業に関して報告をしてくれるようになり,その際に課題となる動作やその工夫に関して報告や相談があるようになった.最終評価では,BRSは左上肢Ⅳ,手指Ⅱ〜Ⅲ,下肢Ⅴと随意性の向上が認められた.VQは「三角定規の課題」退院後28点,3ヶ月後は45点と自発性が客観的指標でも向上が見られている.観察評価で生活状況も自分の言葉で他者へ伝えるようになっている.【考察】今回,課題は明確であり,上肢機能改善を強く希望する利用者に対し,個人因子に着目し本人の自発性を引き出す支援を行なった.本事例は,観察評価を利用したことで,性格・語りの内容から,背景には生徒への指導や妻との協業での塾経営を大切にしていることに気がつくことができ,自発的な課題含む生活に重要であったと考える.本事例では背景に,塾経営,生徒指導を通し妻と楽しく過ごしていくことに強い意志があり,そのことにOTが気づき,課題へ向き合う姿勢を変えたことで,CLの行動変容が得られるきっかけになっていたと考える.【まとめ】本事例を通して,希望される作業に対し医学モデルからの視点だけでなく,個人的原因帰属に言及し,CLの理解をより深めることが,内発的動機づけにつながる一助となり,自発的な課題解決や生活循環に繋げることがOTの専門性の1つと再認識できた.