第58回日本作業療法学会

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ポスター

理論

[PO-2] ポスター:理論 2

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PO-2-2] John Deweyの習慣論からみる習慣性質の二重性

西野 由希子1,2 (1.湘南医療大学 保健医療学部リハビリテーション学科作業療法学専攻, 2.明治大学 理工学研究科建築都市学専攻総合芸術系博士後期課程)

【序論】習慣構築は米国作業療法(以下OT)が創始された時から重視されてきた.米国OTの創始者でもあり,John Dewey(1859-1952)と交流があった精神科医Adolf Meyer(1866-1950)は,私たちの身体は,休息と活動というリズムで脈動する生きた有機体であると述べ,生活の健康的なパターンを養うことを強調しElenore Clark Slagle(1870-1942)とともに習慣訓練を構築した(Meyer, 1922).OTにおいて習慣は非常に関心が高く多く研究がされているが,そのほとんどが習慣構築を是とした前提に研究されている.習慣が人の健康に影響があることは経験的に理解されているものの,習慣にどのような性質がありどのような機能があるのか十分に検討されているとは言い難い.
【目的】本研究の目的は,OTにおいて前提にされている習慣の意義を,John Deweyの習慣論を参照に問い直しその性質と機能を捉え直すことである.
【方法】習慣を捉えるために古典的プラグマティズム哲学者であるJohn Deweyの著書『人間性と行為』(以下HCと略す)を主要文献として用いる.本書でDeweyは,人間は習慣の生き物であって,理性の生き物でも本能の生き物でもない(HC, p128)と述べ,習慣は人の行動に対して支配力を持つ(HC, p55-66)意志そのものであり,人間性の基盤とも捉えている.本書で習慣は非常に幅広い概念として描かれているが社会的慣習の影響を意識しつつも個人の作業の範囲内での習慣を対象とし,その重要な性質を抽出する.
【結果】Deweyは習慣を反復と創造の相反する二重の性質を併せ持つものとして捉えた.機構としての習慣(反復的習慣):経験は,有機体と環境との相互作用でありそれらが持続的な均衡状態を得ると生活の必要に応じて機構化される.その機能は,日常生活にリズムを生み出し,動的な推進力になり,手がかりさえ与えられれば自発的に自動的に作動する(HC, p66-80).習慣の機構は日常生活に秩序と確実性を与え,生活者が安心して日々を送るために不可欠なものとなる.一方で,生活者を日々の変化に対して鈍感にさせ,思考を排除していくものにもなる.媒体としての習慣(創造的習慣):習慣は行為として発現する手前の前意識状態である性向もしくは準備状態,あるいは態度でもある.媒体として機能する習慣は,探求的行動を作動させ,創造的あるいは芸術的活動へと導く.芸術表現や偶然に起こる事態に柔軟に対応できる伸縮自在な習慣は「知的な習慣」(HC, p78)あるいは「生き生きとした芸術としての習慣」(HC, p168)と表現される.習慣が創造性の媒体として柔軟に機能するためには,その構成要素である衝動性と知性が鍵となる.
【考察】Deweyによれば有機体たる人間と環境においておこる相互作用は生命活動(生活)そのものである.障害や病気がありながらも日常的作業が習慣的に繰り返されることは,日々に秩序と確実性を与え,それが生活の基盤となる.一方で,日々経験される日常的作業は同じように繰り返されているようで特殊な経験でもあり習慣の再機構化は常におきているとも言える.作業療法における習慣構築の治療的意義は,そうした日常における安定と創造の連続的往還運動としての生命性を取り戻すことにあると考える.また一方で媒体として機能する柔軟な習慣は非日常的創造的作業へも生活者を導き,生活に新たな視点を広げる可能性をもつものとして機能する可能性がある.
【文献】Adolf Meyer (1922). The philosophy of occupational therapy. Archives of Occupational Therapy 1, 1-10
John Dewey. 河村望訳. デューイ・ミード著作集3. 人間性と行為. 人間の科学社, 1995(John Dewey. Human Nature and Conduct. 1922)