[PO-2-3] 作業科学の視点を用いた介入により「作業的存在」としての自己を再獲得するに至った事例
[はじめに]
脳梗塞後に呈した右片麻痺に加え,同時に膵臓癌も発覚し,将来への強い不安を抱える事例を担当した.本事例に対し,作業科学の視点で関わったところ,作業的存在としての自己を再獲得し自宅退院に至ったため,その実践経過を報告する.なお,本報告にあたり対象者から同意を得ている.
[事例]
70歳代男性,右利き.10代から調理師として働いていた.既往歴はなく,病前は独居で自立した生活を送り,友人との交流を日課としていた.自宅にて体動困難となっているところを友人に発見され急性期病院へ救急搬送.左内包後脚梗塞と診断され保存療法が施行された.さらに入院時のCT検査にて膵頭部腫瘍(レベル未精査,告知済み)と診断された.脳梗塞の発症から42日後,当院回復期病棟へ転院となり,当初,表情は終始硬く,「病気は自分に関係ないことだと思っていた.これからどうなっていくのか」と麻痺を呈する身体と,癌治療を控える自身の境遇への不安が多く聞かれた.目標設定時も「今は何もしたくない」「体が少しでも動くようになれば…」と話すにとどまった.そのため,作業療法では,この時点でのdemandである身体機能への介入を行いつつ,不安軽減に繋がる作業を模索していくことを当面の介入方針とした.
[経過]
発症後43~82日:A氏を作業的存在として理解する目的で作業歴の聴取と分析を行い,その結果に基づく介入を実施した.A氏は野球やボーリングなどのスポーツを通して得た友人が多くおり,その友人関係を今でも大切にしており,調理師の経験を活かし,友人に料理を振る舞うことが生きがいであると表出された.それぞれ,作業科学の形態・機能・意味の視点から,「スポーツ」は,【形態:他者との交流を伴う,機能:人間関係を構築する,意味:楽しさをもたらす】,「料理」は,【形態:自身の経験を発揮する,機能:他者との関係を深める,意味:生きがいをもたらす】と分析ができた.また,A氏の不安は,突然の脳梗塞と癌の告知に加え,友人と会えない孤独な入院環境という「現在」に対するものと,退院後に癌治療が控える「未来」に対するものに整理ができた.ここから,「現在」の不安に対しては,作業療法士との協業関係促進による孤独感の減少と,楽しさにより不安の軽減を図るためにスポーツを手段的に活用し,「未来」の不安に対しては,本事例にとってのいきがいを再獲得するため,調理を目的的に活用することとした.
発症後83~100日:退院に向けて目標の再設定を行った.目標を尋ねると「長く続けてきたこと,無駄にはしたくない」と「友人に料理を振る舞うこと」があげられ,「自宅にて一人でカレーを作れること」が目標となった(MTDLP:実行度5,満足度5).最終的には,課題となっていた作業工程について本事例自らが積極的に工夫を提案するようになり,安全な遂行が可能となった(MTDLP:実行度7,満足度7).
[結果・考察]
作業歴から「スポーツ」と「料理」に焦点を絞り,作業科学の視点で分析した結果を,手段的,目的的に活用した.本事例自身の背景に合致したリハビリを実施(Doing)した結果,作業療法士との協業関係が促進され,不安の表出が減少し,料理人(Being)という作業的存在の再認識へと繋がった.最終的には,不安を感じていた退院後の生活でも,以前と同様に友人たちと共に過ごし(Belonging),彼らに料理を振る舞いたいという希望を持ち(Becoming),自宅退院へと至ったと考えられる.
脳梗塞後に呈した右片麻痺に加え,同時に膵臓癌も発覚し,将来への強い不安を抱える事例を担当した.本事例に対し,作業科学の視点で関わったところ,作業的存在としての自己を再獲得し自宅退院に至ったため,その実践経過を報告する.なお,本報告にあたり対象者から同意を得ている.
[事例]
70歳代男性,右利き.10代から調理師として働いていた.既往歴はなく,病前は独居で自立した生活を送り,友人との交流を日課としていた.自宅にて体動困難となっているところを友人に発見され急性期病院へ救急搬送.左内包後脚梗塞と診断され保存療法が施行された.さらに入院時のCT検査にて膵頭部腫瘍(レベル未精査,告知済み)と診断された.脳梗塞の発症から42日後,当院回復期病棟へ転院となり,当初,表情は終始硬く,「病気は自分に関係ないことだと思っていた.これからどうなっていくのか」と麻痺を呈する身体と,癌治療を控える自身の境遇への不安が多く聞かれた.目標設定時も「今は何もしたくない」「体が少しでも動くようになれば…」と話すにとどまった.そのため,作業療法では,この時点でのdemandである身体機能への介入を行いつつ,不安軽減に繋がる作業を模索していくことを当面の介入方針とした.
[経過]
発症後43~82日:A氏を作業的存在として理解する目的で作業歴の聴取と分析を行い,その結果に基づく介入を実施した.A氏は野球やボーリングなどのスポーツを通して得た友人が多くおり,その友人関係を今でも大切にしており,調理師の経験を活かし,友人に料理を振る舞うことが生きがいであると表出された.それぞれ,作業科学の形態・機能・意味の視点から,「スポーツ」は,【形態:他者との交流を伴う,機能:人間関係を構築する,意味:楽しさをもたらす】,「料理」は,【形態:自身の経験を発揮する,機能:他者との関係を深める,意味:生きがいをもたらす】と分析ができた.また,A氏の不安は,突然の脳梗塞と癌の告知に加え,友人と会えない孤独な入院環境という「現在」に対するものと,退院後に癌治療が控える「未来」に対するものに整理ができた.ここから,「現在」の不安に対しては,作業療法士との協業関係促進による孤独感の減少と,楽しさにより不安の軽減を図るためにスポーツを手段的に活用し,「未来」の不安に対しては,本事例にとってのいきがいを再獲得するため,調理を目的的に活用することとした.
発症後83~100日:退院に向けて目標の再設定を行った.目標を尋ねると「長く続けてきたこと,無駄にはしたくない」と「友人に料理を振る舞うこと」があげられ,「自宅にて一人でカレーを作れること」が目標となった(MTDLP:実行度5,満足度5).最終的には,課題となっていた作業工程について本事例自らが積極的に工夫を提案するようになり,安全な遂行が可能となった(MTDLP:実行度7,満足度7).
[結果・考察]
作業歴から「スポーツ」と「料理」に焦点を絞り,作業科学の視点で分析した結果を,手段的,目的的に活用した.本事例自身の背景に合致したリハビリを実施(Doing)した結果,作業療法士との協業関係が促進され,不安の表出が減少し,料理人(Being)という作業的存在の再認識へと繋がった.最終的には,不安を感じていた退院後の生活でも,以前と同様に友人たちと共に過ごし(Belonging),彼らに料理を振る舞いたいという希望を持ち(Becoming),自宅退院へと至ったと考えられる.