[PP-1-1] 回復期リハビリテーション病棟におけるナッジの使用状況とQOLとの関係について
【背景】近年,国内外においてナッジ(nudge)を活用した公共政策が実施されており,国内でもナッジ・ユニットが設立され,省エネなどの環境事業や大腸がんの受診率向上に導入されている.ナッジは,「人々の選択肢を奪うことなく,環境を整えることで,本人や社会にとって望ましい行動をするようにそっと後押しする手法(Thaler & Sunstein, 2008)」と定義されており,まさに,リハビリテーション分野で使用されている手法である.しかし,リハビリテーション医療分野での検証は実施されておらず,Health and Wellbeingの向上に寄与するナッジの現状についての調査を実施する必要がある.
【目的】回復期リハビリテーション病棟入院中患者のナッジの使用状況および種類を調査することを目的とした.
【方法】多施設間縦断的研究とし,対象は回復期リハビリテーション病棟で作業療法を受ける患者とした.評価時期は初期評価時(初期評価)と初期評価から1ヵ月後または退院転院時(再評価)に実施し,ナッジの種類については,英国ナッジ・ユニットが開発した,EASTを用いた.EASTは,ナッジの特徴である,Easy(簡単である),Attractive(魅力的である),Social(社会規範となっている),Timely(時期は適切である)の頭文字をとったものであり,Eが3項目,Aが2項目,Sが3項目,Tが3項目の合計11項目で構成されている.本研究では,再評価時に使用したナッジの平均項目数,11項目の使用の有無,最も使用した項目を調査した.その他の評価項目として,健康関連QOL尺度には,EQ-5D-5L (QOL値;1.00~-0.025),ADL尺度にはFIMを用いた.統計解析については,EZRを用い,EQ-5D-5LおよびFIMの前後比較にはWilcoxon符号付順位和検定,使用したナッジの項目数とQOL値の増分との相関については,Spearmanの順位相関係数を実施し,有意水準は5%とした.本研究の実施に当たっては,協力病院および本学倫理委員会の審査と承認を得ている.また,本研究に関連し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【結果】対象は52名(女性29名),年齢76.4±10.6歳,初期評価から再評価までは29.5±6.2日であった.疾患については,脳血管疾患等が26名,運動器が26名であった.初期評価と再評価の比較では(初期評価/再評価),EQ-5D-5Lは,(0.51±0.30/0.70±0.27),FIM合計は,(60.3±24.3点/82.6±31.6点)であり,有意に向上した(p<0.01).使用したナッジの平均項目数は4.8±1.6個,使用の有無は11項目で各11~37個の範囲であった.11項目の中で,最も使用頻度が高かった上位3項目は,Eの「メッセージの単純化」,Aの「動機付け設定を行っている」,Tの「事前に対処行動を決めるように促している」であった.使用したナッジの平均項目数とQOL値の増分の相関については,有意な相関は認められなかった.
【考察】本研究より,回復期リハビリテーション病棟では,EASTのすべての項目が使用されており,その中でもメッセージの単純化や動機付けなどが多かった.メッセージの単純化については,特に,専門職対一般の方という,専門分野特有のものであり,多くのOTが使用しているものと考えられる.動機付けに関しては,OTは対象者の「したいこと」,「することが期待されていること」,「しなければいけないこと」などについて,面接を通して詳細に聴取するため,それをヒントに使用していることが推察される.また,使用したナッジの平均項目数とQOL値の増分の相関については有意ではなかったため,ナッジの使用数ではなく,適切なナッジを選択して使用することの重要性が示唆された.
【目的】回復期リハビリテーション病棟入院中患者のナッジの使用状況および種類を調査することを目的とした.
【方法】多施設間縦断的研究とし,対象は回復期リハビリテーション病棟で作業療法を受ける患者とした.評価時期は初期評価時(初期評価)と初期評価から1ヵ月後または退院転院時(再評価)に実施し,ナッジの種類については,英国ナッジ・ユニットが開発した,EASTを用いた.EASTは,ナッジの特徴である,Easy(簡単である),Attractive(魅力的である),Social(社会規範となっている),Timely(時期は適切である)の頭文字をとったものであり,Eが3項目,Aが2項目,Sが3項目,Tが3項目の合計11項目で構成されている.本研究では,再評価時に使用したナッジの平均項目数,11項目の使用の有無,最も使用した項目を調査した.その他の評価項目として,健康関連QOL尺度には,EQ-5D-5L (QOL値;1.00~-0.025),ADL尺度にはFIMを用いた.統計解析については,EZRを用い,EQ-5D-5LおよびFIMの前後比較にはWilcoxon符号付順位和検定,使用したナッジの項目数とQOL値の増分との相関については,Spearmanの順位相関係数を実施し,有意水準は5%とした.本研究の実施に当たっては,協力病院および本学倫理委員会の審査と承認を得ている.また,本研究に関連し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【結果】対象は52名(女性29名),年齢76.4±10.6歳,初期評価から再評価までは29.5±6.2日であった.疾患については,脳血管疾患等が26名,運動器が26名であった.初期評価と再評価の比較では(初期評価/再評価),EQ-5D-5Lは,(0.51±0.30/0.70±0.27),FIM合計は,(60.3±24.3点/82.6±31.6点)であり,有意に向上した(p<0.01).使用したナッジの平均項目数は4.8±1.6個,使用の有無は11項目で各11~37個の範囲であった.11項目の中で,最も使用頻度が高かった上位3項目は,Eの「メッセージの単純化」,Aの「動機付け設定を行っている」,Tの「事前に対処行動を決めるように促している」であった.使用したナッジの平均項目数とQOL値の増分の相関については,有意な相関は認められなかった.
【考察】本研究より,回復期リハビリテーション病棟では,EASTのすべての項目が使用されており,その中でもメッセージの単純化や動機付けなどが多かった.メッセージの単純化については,特に,専門職対一般の方という,専門分野特有のものであり,多くのOTが使用しているものと考えられる.動機付けに関しては,OTは対象者の「したいこと」,「することが期待されていること」,「しなければいけないこと」などについて,面接を通して詳細に聴取するため,それをヒントに使用していることが推察される.また,使用したナッジの平均項目数とQOL値の増分の相関については有意ではなかったため,ナッジの使用数ではなく,適切なナッジを選択して使用することの重要性が示唆された.