第58回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-3] ポスター:基礎研究 3 

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PP-3-1] 健常者の座位での横移動動作時の荷重の分析

渡邊 由貫1, 荻野 祥代1, 坂本 里佳1, 前野 豊2, 山本 澄子3 (1.横浜市立脳卒中・神経脊椎センター リハビリテーション部, 2.横浜市立脳卒中・神経脊椎センター リハビリテーション科, 3.国際医療福祉大学大学院)

【はじめに】座位での横移動は,片麻痺者が車椅子に移乗する際に使う動作である.我々は横移動を「腰かけ座位から殿部をわずかに浮かせて移動方向へ動かし,腰かけ座位に戻るまでの一連の動き」と定義し健常者の分析を試みた.動作中に殿部や足部がいつどのように横への動きを作り出しているか知ることを目的に動作中の殿部と足部の反力を計測した.また,今後片麻痺者の計測を行うことを前提に,主観的に行きやすい方向・行きにくい方向に分けて分析した.横移動の動作分析は調べた限り存在せず,本研究は片麻痺者の横移動獲得に有効な介入を考える基礎となると考える.本研究は当院倫理委員会の承認を得ている.
【対象】健常者20名(男女各10名).平均年齢40.9±12.21歳.平均身長165.6±8.68㎝.平均体重56.8±9.73㎏.被検者には文書で同意を得た.
【方法】床反力計2枚に高さ40cmの椅子をそれぞれ設置.被験者は大腿長の1/2の深さで椅子2脚にそれぞれ左右の殿部が載るように座る.左右大腿外側より5cmのところに貼ったテープを目安に,足部は動かさず,左右3回ずつランダムに横移動を行わせた.床反力計で殿部と足部の反力の鉛直方向成分(以下,荷重),床反力作用点を計測した.計測後,主観的に行きやすい方向を聴取した.
【分析】横移動を①離殿の2秒前~1秒前,②離殿の1秒前~離殿,③離殿中,④着殿時の4つの過程に分け,分析を行なった.①・②は移動側・反対側殿部の体重で規格化した平均荷重,③は所要時間の平均値,離殿中の足部の床反力作用点の軌跡,④は着殿の衝撃を示す着殿直後の両殿部の荷重の最大値を算出した.統計:①・②は移動側と反対側を比較するため平均荷重を対応のあるt検定,④は離殿時間と着殿の衝撃の大きさとの関係をspearmanの順位相関係数にて検定し,危険率は1%とした.
【結果】①離殿の2秒前~1秒前:行きやすい方向の平均荷重は移動側3.85±0.34N/kg,反対側4.29±0.41N/kgで有意に反対側に荷重していた.行きにくい方向の平均荷重は移動側4.12±0.39 N/kg,反対側4.06±0.28N/kgで有意な差はなかった.②離殿の1秒前~離殿:行きやすい方向の平均荷重は移動側3.24±0.37N/kg,反対側3.14±0.34N/kgで有意な差はなかった.行きにくい方向の平均荷重は移動側3.90±0.42N/kg,反対側3.45±0.35N/kgで有意に移動側に荷重していた.③離殿中:離殿時間は平均0.53±0.20秒であった.足部の床反力作用点の軌跡は一定の傾向がなかった.④着殿時:着殿後の両殿部の荷重の最大値は平均7.61±2.41N/kg.離殿時間と荷重の最大値は行きやすい方向と行きにくい方向に差はなく,離殿時間と荷重の関係は相関係数r=-0.57で離殿時間が短いと着殿後の殿部荷重の最大値が大きかった.
【考察】行きやすい方向では, 離殿の2秒前~1秒前に反対側の殿部の荷重を増やすことで,両殿部の合成床反力が反対方向に動き,重心を移動方向へ回転させる力となり横への動きを作っていると考えられた.行きにくい方向では,離殿の1秒前~離殿に徐々に移動側殿部の荷重を増やし横への動きを作っていると考えられた.離殿中の足部の床反力作用点の軌跡に一定の傾向がなかったことから,足部は横方向への動きを調整していないと考えられた.離殿時間が短いほど着殿時の殿部荷重最大値が大きいことは,離殿時間が短く重心の落下速度が速いと,着殿の際に殿部で受ける力が大きくなると考えられた.
【結語】健常者の横移動では,離殿前に殿部の荷重を変化させ横への動きを作り出しており,行きやすい方向と行きにくい方向で動作戦略が異なっていた.また,着殿時の殿部の荷重は離殿の時間に依存するものであった.