[PP-4-1] ヒト脳活動の興奮-抑制活動指標の検出
遂行課題による脳活動の変化
【背景】作業療法の対象となる精神疾患や発達障害,認知症,あるいは脳外傷や脳卒中では脳内神経活動の興奮活動と抑制活動のバランス(E-I balance)が崩れていたり,治療によって新たなバランスを獲得したりする可能性が報告されている.E-I balance は神経伝達物質やその受容体のレベルでの神経伝達のバランスとして分子生物学的研究や動物実験で明らかになりつつある現象である一方,近年では脳波や画像解析でヒトの脳活動として計測されつつある.E-I balance は疾患における病態ばかりではなく,神経ネットワーク活動として生じている脳活動全般で変化や調節がなされていると考えられ,作業療法で行われる様々な介入においてもその効果を生じる背景には E-I balance への作用が考えられる.
【目的】本研究では安静時及び課題遂行時の脳波からE-I balance についての解析を試みた.α波の変動で生じている正の加速度(興奮性成分)と負の加速度(抑制性成分)を抽出し,遂行課題間での変化を明らかにすることを目的とした.
【方法】60人の健常者(平均年齢20.0歳,女性32人,男性28人)の安静時,計算,音楽聴取,記憶課題の課題遂行時の脳波(国際10-20法による61電極記録)が含まれる公開データセットを用いた(doi:10.18112/openneuro.ds004148.v1.0.1).アーチファクトを除去された300秒の脳波記録から目視により動きや筋電図のノイズ混入の少ない60秒間を切り出し,分析対象としたα波を周波数フィルタ(8-13Hz)によって抽出した.α波の外郭(エンベロープ)波形を算出し,エンベロープ時系列の二次微分によって得らえた興奮性成分(正の加速度, E value)と抑制性成分(負の加速度, I value)について60秒間の平均値とその比率(E-I ratio)を求めた.統計解析は,60名の値を電極ごとに課題間で比較した(対応のあるt検定).有意水準は危険率5%とし,多重比較としてボンフェローニ法にて補正した.
【結果】E-I ratioの値は,後頭部と頭頂部領域の電極において,計算と音楽聴取,記憶課題では安静時に比較して有意に低い値を示した.E valueは頭頂部領域,I valueは後頭部,頭頂部,中心部領域,エンベロープの振幅は前頭極部,前側頭部領域を除く領域で,計算,音楽聴取,記憶課題では安静時に比較して有意に高い値を示した.エンベロープ振幅,E value,I value,E-I ratioは課題間(計算,音楽聴取,記憶課題)には有意な差は認められなかった.
【考察】本研究では脳波を用いて脳活動の興奮性および抑制性成分の変化の検出を試みた.安静時と課題遂行時には差が認められたが,課題間には差がなかったため,検出された変化は課題遂行に共通した脳活動(注意の維持など)を反映している可能性が考えられた.本研究では大脳皮質機能領域別の解析は行っていない.遂行課題間の差の検出には電流源計算による機能領域別の比較が必要であろう.本解析で得られた値は脳ネットワーク活動で生じている神経活動の一部を検出している可能性があり,機能障害やその回復に関する指標として用いたり,それらの変化から障害や病態を E-I balance の視点としてとらえたりすることは,新たな作業療法の方策を講じることにつながるものと考えた.本演題発表に関するCOIはない.
【目的】本研究では安静時及び課題遂行時の脳波からE-I balance についての解析を試みた.α波の変動で生じている正の加速度(興奮性成分)と負の加速度(抑制性成分)を抽出し,遂行課題間での変化を明らかにすることを目的とした.
【方法】60人の健常者(平均年齢20.0歳,女性32人,男性28人)の安静時,計算,音楽聴取,記憶課題の課題遂行時の脳波(国際10-20法による61電極記録)が含まれる公開データセットを用いた(doi:10.18112/openneuro.ds004148.v1.0.1).アーチファクトを除去された300秒の脳波記録から目視により動きや筋電図のノイズ混入の少ない60秒間を切り出し,分析対象としたα波を周波数フィルタ(8-13Hz)によって抽出した.α波の外郭(エンベロープ)波形を算出し,エンベロープ時系列の二次微分によって得らえた興奮性成分(正の加速度, E value)と抑制性成分(負の加速度, I value)について60秒間の平均値とその比率(E-I ratio)を求めた.統計解析は,60名の値を電極ごとに課題間で比較した(対応のあるt検定).有意水準は危険率5%とし,多重比較としてボンフェローニ法にて補正した.
【結果】E-I ratioの値は,後頭部と頭頂部領域の電極において,計算と音楽聴取,記憶課題では安静時に比較して有意に低い値を示した.E valueは頭頂部領域,I valueは後頭部,頭頂部,中心部領域,エンベロープの振幅は前頭極部,前側頭部領域を除く領域で,計算,音楽聴取,記憶課題では安静時に比較して有意に高い値を示した.エンベロープ振幅,E value,I value,E-I ratioは課題間(計算,音楽聴取,記憶課題)には有意な差は認められなかった.
【考察】本研究では脳波を用いて脳活動の興奮性および抑制性成分の変化の検出を試みた.安静時と課題遂行時には差が認められたが,課題間には差がなかったため,検出された変化は課題遂行に共通した脳活動(注意の維持など)を反映している可能性が考えられた.本研究では大脳皮質機能領域別の解析は行っていない.遂行課題間の差の検出には電流源計算による機能領域別の比較が必要であろう.本解析で得られた値は脳ネットワーク活動で生じている神経活動の一部を検出している可能性があり,機能障害やその回復に関する指標として用いたり,それらの変化から障害や病態を E-I balance の視点としてとらえたりすることは,新たな作業療法の方策を講じることにつながるものと考えた.本演題発表に関するCOIはない.