[PP-4-4] 女性作業療法士が結婚・出産後にワークスタイルを確立するまでのプロセス
複線径路等至性モデリング(TEM)を用いた4名の分析
序論
女性の働きやすさを支援するために,各職場には様々な福利厚生制度がある.しかし,我が国の女性は,結婚や出産を契機に一旦離職し,育児がひと段落するまではキャリアを中断する「M字カーブ」を描く特徴がある.子育て期にある女性が仕事と子育てを両立できる環境を整備するためには,福利厚生制度ではカバーしきれていない潜在的な障壁を明らかにし改善する必要がある.
目的
本研究は,結婚や出産を経験した女性作業療法士(以下:女性OT)が,ワークスタイルを確立するまでに経験した障壁と,その障壁をどのように克服したのかを質的研究手法を用いて明らかにすることを目的とした.これにより,女性OTが働きやすい環境を作るための手がかりを提供したい.
方法
女性OTの主観的経験を時間経過の中で捉え,縦断的に分析・考察する必要があるため,人間の成長を時間的変化と文化社会的文脈との関係の中で捉え記述することができる複線径路等至性モデリング(TEM)を採用した.対象者は,歴史的構造化ご招待(HSI)の概念に則り,以前から研究代表者と関係があり,結婚・出産を経験しながらも作業療法士としてワークスタイルを確立した女性OT4名を招待した.4名とした理由は,HSIにおける1・4・9の法則に則り,多様性の萌芽を可視化し,径路の多様な部分と収束する部分とを明確にするためである.対象者1名につき,インタビューガイドに基づき30〜40分のインタビューを実施した.インタビューデータから作成した逐語録を研究分担者と共に精読した後,対象者のこれまでのキャリアを時系列法でまとめTEM図を試作した.2回目以降のインタビューでは,試作したTEM図を対象者に提示しながら,トランスビュー的飽和(研究者と対象者が複数回のやりとりを経て双方の見方を融合させ,研究者がTEM 図に示した内容と対象者の認識に相違がない状態)に至るまで修正と分析を繰り返し,TEM図を完成させた.なお,本研究は仙台青葉学院短期大学研究倫理審査委員会の承認(承認番号0319)を得て実施した.また,対象者に対しては,ヘルシンキ宣言に則り十分に説明を行い,同意を得た.なお,本研究において利益相反関係にある企業等はない.
結果
4名の対象者は,復職後,8種類の障壁(環境の変化,子供の体調不良,職場のマンパワー,職場の人間関係,家族の非協力,上司からの圧力,時間確保の難しさ,福利厚生の不足)を経験していた.しかし,障壁の克服につながる9種類の要因(良好な職場の人間関係,良好な保育園の人間関係,家族の協力,保育制度の充実,希望した環境への異動,学術活動への挑戦,COVID-19による研修会のオンライン化,福利厚生の充実,勤務時間の自由度)を活かしながら生活時間の効率化を図り,仕事・育児・自己研鑽の折り合いをつけ,ワークスタイルを確立していた.
結語
本研究の対象者がワークスタイルを確立するまでのプロセスには,多くの障壁が存在していたことが明らかになった.また,その障壁の克服には,複数の要素が促進的に影響を与えていた.本研究は4名を対象とした質的研究であり,結果を一般化することはできないが,本研究によって明らかにした障壁は,多くの女性OTが経験するものと思われる.4名の対象者の経験は,女性OTが類似した状況に陥った際に,より良い意思決定や選択をするための考察の一助になるものと考える.
女性の働きやすさを支援するために,各職場には様々な福利厚生制度がある.しかし,我が国の女性は,結婚や出産を契機に一旦離職し,育児がひと段落するまではキャリアを中断する「M字カーブ」を描く特徴がある.子育て期にある女性が仕事と子育てを両立できる環境を整備するためには,福利厚生制度ではカバーしきれていない潜在的な障壁を明らかにし改善する必要がある.
目的
本研究は,結婚や出産を経験した女性作業療法士(以下:女性OT)が,ワークスタイルを確立するまでに経験した障壁と,その障壁をどのように克服したのかを質的研究手法を用いて明らかにすることを目的とした.これにより,女性OTが働きやすい環境を作るための手がかりを提供したい.
方法
女性OTの主観的経験を時間経過の中で捉え,縦断的に分析・考察する必要があるため,人間の成長を時間的変化と文化社会的文脈との関係の中で捉え記述することができる複線径路等至性モデリング(TEM)を採用した.対象者は,歴史的構造化ご招待(HSI)の概念に則り,以前から研究代表者と関係があり,結婚・出産を経験しながらも作業療法士としてワークスタイルを確立した女性OT4名を招待した.4名とした理由は,HSIにおける1・4・9の法則に則り,多様性の萌芽を可視化し,径路の多様な部分と収束する部分とを明確にするためである.対象者1名につき,インタビューガイドに基づき30〜40分のインタビューを実施した.インタビューデータから作成した逐語録を研究分担者と共に精読した後,対象者のこれまでのキャリアを時系列法でまとめTEM図を試作した.2回目以降のインタビューでは,試作したTEM図を対象者に提示しながら,トランスビュー的飽和(研究者と対象者が複数回のやりとりを経て双方の見方を融合させ,研究者がTEM 図に示した内容と対象者の認識に相違がない状態)に至るまで修正と分析を繰り返し,TEM図を完成させた.なお,本研究は仙台青葉学院短期大学研究倫理審査委員会の承認(承認番号0319)を得て実施した.また,対象者に対しては,ヘルシンキ宣言に則り十分に説明を行い,同意を得た.なお,本研究において利益相反関係にある企業等はない.
結果
4名の対象者は,復職後,8種類の障壁(環境の変化,子供の体調不良,職場のマンパワー,職場の人間関係,家族の非協力,上司からの圧力,時間確保の難しさ,福利厚生の不足)を経験していた.しかし,障壁の克服につながる9種類の要因(良好な職場の人間関係,良好な保育園の人間関係,家族の協力,保育制度の充実,希望した環境への異動,学術活動への挑戦,COVID-19による研修会のオンライン化,福利厚生の充実,勤務時間の自由度)を活かしながら生活時間の効率化を図り,仕事・育児・自己研鑽の折り合いをつけ,ワークスタイルを確立していた.
結語
本研究の対象者がワークスタイルを確立するまでのプロセスには,多くの障壁が存在していたことが明らかになった.また,その障壁の克服には,複数の要素が促進的に影響を与えていた.本研究は4名を対象とした質的研究であり,結果を一般化することはできないが,本研究によって明らかにした障壁は,多くの女性OTが経験するものと思われる.4名の対象者の経験は,女性OTが類似した状況に陥った際に,より良い意思決定や選択をするための考察の一助になるものと考える.