第58回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-5] ポスター:基礎研究 5

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PP-5-1] 3Dプリンタで製作したモデル硬貨のつまみ上げ動作に対する硬貨の厚さと示指指尖球の大きさの影響

浅尾 章彦, 藤田 貴昭, 川又 寛徳, 曽根 稔雅 (福島県立医科大学保健科学部作業療法学科)

【はじめに】3Dプリンタの普及とともに作業療法で用いる自助具や治療具がミリ単位で製作可能となりつつある.手指機能の改善を目的とした治療場面では,小物品を変化させることで様々なつまみ動作の訓練を行う.鎌倉ら(2013)は,オセロの石と硬貨のつまみ上げにおいて示指の把持形態が異なることを報告している.近年,3Dプリンタで製作した厚さが異なるモデル硬貨のつまみ上げでは,硬貨の厚さに依存して示指のまきあげ運動の出現や母指球の筋活動量が変化し,示指のまきあげ運動の有無は厚さ1.5 mmと3.0 mmの間で変化することが報告された(浅尾ら,2023).しかし,小物品の把持形態の変化は,物品の大きさや厚さだけでなく,物品を操作する示指の指尖球の大きさが影響する可能性がある.
【目的】健常者において3Dプリンタで作製したモデル硬貨の厚さと示指の指尖球の大きさがつまみ上げ動作時のまきあげ運動の有無と母指球筋の筋活動量に及ぼす影響を明らかにする.
【方法】対象は健常若年者17名とした.被験者は10円硬貨と3Dプリンタで製作した厚さが異なるモデル硬貨4種類(厚さ1.5,3.0,4.5,6.0 mm)のつまみ上げを行った.被験者は1秒間で硬貨を机上からつまみ上げ,次の1秒間で硬貨を約10 cm持ち上げた.つまみ上げ動作は各硬貨につき5回実施した.評価はビデオカメラによる動作分析と筋電図による母指球筋の筋活動量の分析とした.ビデオカメラによる動作分析は,硬貨をつまみ上げた際に示指と母指が硬貨の表裏面を把持している場合にまきあげ運動あり,硬貨の側面を把持している場合にはまきあげ運動なしと定義し,各硬貨のつまみ上げ5試行中のまきあげ運動ありの割合を算出した.母指球筋の筋活動量は短母指屈筋上に電極を貼付し,つまみ上げ動作1秒間の積分筋電値を解析した.積分筋電値は最大随意収縮時の値で除し正規化した.計測前には,被験者の示指指尖球の大きさをノギスで測定した.被験者は指尖球の大きさに応じてSmall群10名とLarge群7名に群分けした.統計解析では,示指まきあげ運動の割合は各群についてコクランのQ検定を実施した.また,両群ともにまきあげ運動の有無が最も変化したモデル硬貨の厚さ1.5 mmおよび3.0 mmでまきあげ運動の変化と指尖球の大きさについてフィッシャーの正確確率検定を実施した.積分筋電値は硬貨の厚さと指尖球の大きさを要因とした混合計画二元配置分散分析を実施した.有意水準は危険率5%とした.本研究は,所属機関の倫理委員会の承認を得た後,全対象者にインフォームド・コンセントを得た.研究実施に際しては,対象者の個人情報保護に留意した.
【結果】モデル硬貨のつまみ上げ動作では,コクランのQ検定の結果,両群ともまきあげ運動の有無に硬貨の厚さの影響がみられた.モデル硬貨の厚さ1.5 mmと3.0 mm間でまきあげ運動の変化と指尖球の大きさでは,フィッシャーの正確確率検定の結果,両群にまきあげの違いがなかった.モデル硬貨のつまみ上げ時の母指球筋の筋活動量は,分散分析の結果,硬貨の厚さの影響がみられた一方で指尖球の大きさの影響はなかった.
【考察】3Dプリンタで製作したモデル硬貨のつまみ上げは,硬貨の厚さの影響は受ける一方,示指の指尖球の大きさの影響はみられなかった.厚さが1.5~6.0 mmのモデル硬貨のつまみ上げにおいては,示指の指尖球の大きさの影響を受けずに,厚さが1.5 mmと3.0 mmの間で示指のまきあげの有無が変化することが明らかとなった.本演題発表に関連するCOIはない.