第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-5] ポスター:基礎研究 5

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PP-5-2] 交流電気刺激によるリズミック運動に関するネットワーク活動の変化

在原 菜々花1,2, 鈴木 誠1,3, 磯 直樹1,3, 斎藤 和夫3, 西川 順治4 (1.東京家政大学大学院 人間生活学総合研究科, 2.埼玉石心会病院 リハビリテーション部, 3.東京家政大学 健康科学部, 4.埼玉石心会病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
 小脳と一次運動野を含む脳のネットワーク活動が,タイピング,拍手,料理といったリズミック運動の基盤になっている.近年,頭皮上から微弱な交流電気を流した場合に,交流電気の周期に同調するように神経細胞の活動周期が変化することが示され,リズミック運動を改善する新しい介入方法として期待されている.交流電気刺激を用いたこれまでの研究では,歩行の周波数に近似した周波数の交流電気を小脳に流すことによって,歩行の位相同期性が向上したことが報告されている(Koganemaruら, 2020).しかしこれまでの研究では,小脳に対する交流電気刺激がリズミック運動に関与する小脳と一次運動野のネットワーク活動に及ぼす影響が明らかになっていない.そこで本研究では,小脳に対する交流電気刺激がリズミック運動に関する小脳と一次運動野のネットワーク活動に及ぼす影響を検証することを目的とした.
【方法】
 右利きの健常成人1名(24歳,女性)を対象とした.本研究は東京家政大学大学院倫理委員会によって承認され,ヘルシンキ宣言に則って実施された.対象者には研究内容に関する十分な説明を行い,本研究への参加についての同意を文書にて得た.実験では,右手は0.35 Hzの低音メトロノーム音,左手は0.70 Hzの高音メトロノーム音に合わせて外転運動を15度の範囲で行うよう対象者に教示した.リズミック運動課題中に右小脳に対してpeak-to-peak 2 mAの刺激強度で5 Hz(低周期条件),60 Hz(高周期条件),疑似的な交流電気刺激(疑似刺激条件)を1日以上の間隔を空けて行った.また,リズミック運動課題の前後に小脳と一次運動野を5 msの間隔で経頭蓋磁気刺激し,運動誘発電位の振幅変化から小脳と一次運動野における抑制性のネットワーク活動を評価した.加えて,示指MP関節の角度変化からリズミック運動の振幅逸脱度および時間逸脱度を評価した.
【結果】
 リズミック運動前後における運動誘発電位振幅の平均変化率は,疑似刺激条件と比較して高周期条件で有意に小かった(低周期条件0.57,高周期条件0.13,疑似刺激条件0.89).また,リズミック運動の平均時間逸脱度は,疑似刺激条件と比較して低周期条件と高周期条件において減少した(低周期条件344.2 ms,高周期条件493.9 ms,疑似刺激条件755.6 ms).振幅逸脱度は,疑似刺激条件と比較して高周期条件において有意に減少した(低周期条件1.70度,高周期条件1.37度,疑似刺激条件2.06度).
【考察】
 右小脳に対する60 Hzの交流電気刺激によって小脳と一次運動野に関する抑制性のネットワーク活動が増加することが示唆された.またこれに伴い,両手のリズミック運動における振幅逸脱度および時間逸脱度が減少することが示唆された.過去の研究では,パーキンソン病,ミオクローヌス,統合失調症などの疾患において小脳と一次運動野の抑制性ネットワーク活動が低下することが報告されている(Spampinatoら, 2021).今後,リズミック運動が困難となった患者に対する作業療法に小脳に対する高周期の交流電気刺激を応用できる可能性がある.本研究は,科学研究費補助金(基盤B)23H03255の支援により行われた.