第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-5] ポスター:基礎研究 5

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PP-5-3] 運動学データの主成分分析による正常な食事動作の特徴

中武 潤1, 宮﨑 茂明1, 荒川 英樹1, 帖佐 悦男2 (1.宮崎大学医学部附属病院 リハビリテーション部, 2.宮崎大学医学部附属病院)

研究背景と目的
 作業療法の対象である日常生活活動は,上肢の離散的なリーチ動作と多様な手の構えを含んでいるため複雑であり,臨床評価では,観察者の知識と経験に頼るところが大きい.今世紀に入り,日常生活の3次元動作解析が実験的環境で行われるようになり,厳密で客観的な運動学データによって理解できるようになった.しかし,それは関節角度と特定の身体部位(手部や骨盤など)の運動を示していて,動作の目的と関連づけられていないため,どのような機能的動作が日常生活を構成しているかについては検討されていない.
 本研究では,健常者の食事動作における全身の関節運動データに対して主成分分析を行い,臨床評価の参考になりえる正常な機能的動作を抽出することを目的とした.
方法
 本研究計画は演者らの所属機関倫理委員会より承認を受けた.また,過去に実施した研究において取得した情報を使用したため,所属機関ホームページに本研究の実施情報を公示し,過去の研究参加者が本研究への参加を拒否できる機会を設けた.
 データ解析の対象者は,右利きの健常成人45名(男性23名,女性22名)であり年齢27.3±5.1歳(平均±標準偏差)だった.課題は,右手に持ったスプーンでヨーグルトを器からすくって口に運んで取りこむ動作とし,慣性センサ式3次元動作解析装置(Xsens MVN system, Xsens technologies B.V.)によって全身の運動学データを取得した.スプーンが口から離れてヨーグルトに到達する動作(到達相)・ヨーグルトをすくう動作(すくう相)・口に運搬する動作(運搬相)・口に取り込む動作(取り込む相)の,右肩・肘・前腕・手・頚部・股関節の可動範囲と遂行時間に対して主成分分析を行い,得られた主成分負荷量から,主成分が示す動作の特徴を解釈した.
結果
 第1主成分の寄与率は全体の50.0%を占め,そのすべての主成分負荷量が0.4以上を示しており,時間をかけた口と手を遠ざける全身動作及び近づける動作を示していると解釈した.第2主成分(寄与率13.7%)は,手の向きを変えてすくう動作が手関節運動で生じ,同時に頚部屈伸角度が固定されていると考えられた.第3主成分(寄与率7.8%)は肩関節が固定され肘関節運動によって生じた上肢リーチ動作と考えられた.第4主成分(寄与率6.5%)は肘関節の固定と頚部の側屈運動でヨーグルトを口に取り込む動作,第5主成分(寄与率5.0%)は手関節掌背屈運動によるすくう動作及び取り込む動作,第6主成分(寄与率4.3%)は股関節の固定による体幹姿勢の安定と考えられた.第6主成分までの累積寄与率は87.4%を占めた.
考察
 全身の関節運動データを圧縮して主成分を抽出することで,正常な食事動作の特徴を示すことが可能になると考えられた.また,それぞれの目的に関連付けられた関節運動と運動時間を示すことができた.食事動作には上肢だけでなく中枢部の運動も関与していることが示唆された.これらは臨床評価における観察の視点を提供し,日常生活活動の動作を特徴づける変数を決定する一助になると考えられた.