第58回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-6] ポスター:基礎研究 6

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PP-6-2] 糖尿病が排便機能に及ぼす影響

大城 直美1, 村松 憲2, 岩崎 也生子1, 丹羽 正利1 (1.杏林大学保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻, 2.杏林大学保健学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

【はじめに】糖尿病に罹患している対象者は年々増加しており,作業療法においては糖尿病による合併症に関する知識や病態の把握とともに,その評価や介入の実践が求められている.この糖尿病合併症の一つに排便機能障害が知られているが,糖尿病患者の排便機能の改善に焦点を当てたリハビリテーションは確立されていない.その要因として,糖尿病による排便機能の病態が明らかでないことがあげられる.排便機能と密接に関わる随意運動可能な横紋筋は,肛門の収縮を担う外肛門括約筋(external anal sphincter:EAS)と,腹圧を上昇させて直腸内圧を上げる役割を担う腹壁筋群(abdominal muscles:ABD)がある.そこで本研究では,糖尿病モデルラットを対象に両筋の直腸内圧への関与と疲労耐性を明らかにし,排便機能への影響を調べることを目的とした.
【方法】ストレプトゾトシン(STZ)投与によって1型糖尿病発症後5ヵ月が経過したラット(Diabetes mellitus:糖尿病群,DM)と同週齢の健常ラット(Control:対照群,CON)を用い,全て麻酔下にて行った.EASとABDの支配神経を剖出,剖出した神経を電気刺激して各筋を収縮させ,肛門に挿入したバルーンの圧を測定した.電気刺激は周波数20Hz,40Hz,60Hz,80Hz,100Hzで行い,各刺激周波数によって生じる直腸内圧の変化を測定した.また20Hzと100Hzの刺激を用いて5分間の間欠的刺激を行い,直腸内圧の変化から刺激周波数依存的な疲労特性を比較した.解析にはPrism10を用いて,二元配置分散分析にて解析した.本研究は,杏林大学動物実験委員会の倫理規定に従い実施した.
【結果】CONにおけるEASに由来する直腸内圧は20Hz:4.6±2.1 mmHg,40Hz:5.9±2.6 mmHg,60Hz:6.1±2.7 mmHg,80Hz:6.1±2.6 mmHg,100Hz:6.7±3.2 mmHg,DMは20Hz:1.9±1.1 mmHg,40Hz:2.8±1.9 mmHg,60Hz:2.9±1.5 mmHg,80Hz:3.1±1.6 mmHg,100Hz:3.4±1.6 mmHgであった.40Hz以上の周波数の刺激ではDMの値が有意に小さかったが(p<0.05),計測値を体重で除して標準化すると差は認められなかった.一方,ABDではCONの直腸内圧は20Hz:0.8±0.3 mmHg,40Hz:2.5±1.4 mmHg,60Hz:4.6±2.2 mmHg,80Hz:5.4±2.5 mmHg,100Hz:8.1±2.5 mmHg,DMは20Hz:0.8±0.4 mmHg,40Hz:1.7±1.1 mmHg,60Hz:1.9±1.1 mmHg,80Hz:2.3±1.3 mmHg,100Hz:3.0±1.8 mmHgと,60Hz以上の刺激でDMの圧が小さく,この結果は体重で標準化しても変化しなかった(p<0.05).疲労特性はABDの100Hz刺激開始から30秒の間はDMの直腸内圧の減少がCONに比べて緩やかで(P <0.001),その後もDMの直腸内圧の減少がCONに比べて緩やかで,疲労しにくかった.
【考察】排便に関連する横紋筋に対する糖尿病の影響は筋によって異なり,ABDはEASに比べて感受性が高いことがわかった.ABDの機能障害は速筋の機能を反映する高周波数刺激によって顕在化するため,両筋の組成の違いを反映している可能性がある.以上の結果は,糖尿病による排便機能への影響は腹壁筋群の機能低下が要因の一つであることを示唆するものであり,排便障害を有する糖尿病患者に対する作業療法の潜在的標的として腹筋群が挙げられることを示している.