第58回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-7] ポスター:基礎研究 7

Sun. Nov 10, 2024 9:30 AM - 10:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PP-7-2] 全脳における神経接続性(connectivity)と加齢変化

武田 悠我1, 寳珠山 稔2 (1.名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学, 2.名古屋大学 大学院医学系研究科 総合保健学専攻 予防・リハビリテーション科学)

【序論】脳機能障害や高齢者への作業療法の介入の効果は,近年は神経接続の可塑的変化の視点から論じられることが増えてきている.加齢に伴う脳の可塑性や神経接続の変化は,高齢者の日常生活や認知機能に影響を与える. 有効な可塑的変化が生じるか否かは,ネットワーク構築の有効な再編や代償性変化が生じるかどうかに関係しており,その構築の基本要素は神経間の機能的接続(neural connectivity)である.加齢による神経の機能的接続性の減少は認知機能低下や作業遂行能力の低下にも関連する可能性がある. 神経の機能的接続は脳のネットワークに関連した研究や脳機能障害回復の前後などでの観察が報告されているが,加齢による変化の全体像の報告はなされていない.作業療法場面でも,高齢者を対象としたOTやその効果を考えるうえで, 脳の加齢性変化を考慮することは重要である.また, 脳波や脳磁図の活用は脳機能障害への理解を深め, 効果的な介入・治療戦略の開発にも役立つ. これまでconnectivityの研究は血流変化を機能的核磁気共鳴画像(fMRI)で検出することを中心として行われてきたが,脳波(EEG)や脳磁図(MEG)により神経活動のconnectivityについて計測することができる.
【目的】本研究では脳の機能領域間の接続性を計算し全脳での平均値と加齢との関係を明らかした. すなわちconnectivityの視点から脳全体がどの程度加齢による影響を受けているか,を見ることである.
【方法】本研究は健常成人を対象として,安静閉眼時の脳活動を160チャンネル前頭型脳磁計により計測した. 標的とする脳活動は,大脳皮質で生成され皮質間のフィードバックに供する活動であるとされるα周波数帯域(8~13Hz,α波)の脳活動である.20歳~80歳代までの健常成人ボランティア被験者から記録蓄積された脳磁計既存データを用いた(60例).器質的疾患のあるもの, 神経疾患のあるもの, および認知症患者(MMSE25点以下)は除外している. 68の皮質機能領域(Desikan-Killiany atlas)の2つの領域間の全組み合わせについて神経接続性をAEC(amplitude envelope correlation)を用いて算出し全脳での平均値を得た.全脳AEC平均値と年齢との相関および世代間での比較(ANOVAおよびt-test)を行った.
【結果】計測を行った60例のうち,傾眠や電気的ノイズにより解析が困難であった例を除いた53例を解析対象とした.年齢と全脳AEC平均値には有意な弱い相関(相関係数r =-0.309,p = 0.0244)が得られ,30歳以上の被験者に限ると(n = 43)相関値は高くなった(r = -0.372, p = 0.0141).
【考察】本研究では脳磁計で計測されたデータを使用し, 安静閉眼時の脳活動について神経間の機能的接続性とその加齢変化について検出した.脳全体としては,量的なconnectivityは加齢とともに低下していた.加齢による神経線維や神経細胞の減少の影響は推測されたが,脳機能の成熟や脳のネットワーク間での代償機能も生じているものと考えられ,全脳でのconnectivityの低下は必ずしも機能低下を意味するものではないと考えられた.加齢変化では,全脳におけるconnectivityで表される神経接続は減少しつつも,その重み付けやネットワーク内の構造の変化などが生じているものと推察された.介入によって脳局所やネットワーク構造でのconnectivityの変化の報告は増えているが,加齢による脳全体の変化を把握しつつ理解する必要があると考えられた.
【倫理手続きの順守】本研究は所属機関(名古屋大学大学院医学系研究科)の倫理審査にて承認を得て実施した.