第58回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-8] ポスター:基礎研究 8

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PP-8-3] VRを使用した視覚的動揺条件の違いによる平衡機能への影響

磯 直樹1, 東恩納 拓也1, 岡部 拓大1, 趙 吉春1, 鈴木 誠1,2 (1.東京家政大学 健康科学部, 2.東京家政大学大学院 人間生活学総合研究科)

【緒言】
 姿勢を保持するためのバランス能力は視覚情報を中心として,平衡感覚や触覚などの複数の情報を処理し統合することで成立している.脳卒中患者においては,空間認知の障害や平衡機能の障害によってバランス能力が低下し,座位や立位保持が困難となることが多い.そのため,リハビリテーション専門職が転倒や転落などに注意して対象者の安全を確保しつつ,アプローチする状況は多くある.
 平衡機能に関しては,自身の身体を意識する内部焦点と身体以外の外部情報に着目する外部焦点が関与するとされている(Wulf,1990).我々は,この2つの焦点に着目してVRを利用して視覚情報と平衡感覚の不一致を利用した平衡機能トレーニングを開発している.
本研究ではプログラムを開発するにあたり,先ずは外部焦点に着目し,VR内の映像を動揺させることによって平衡感覚に影響を及ぼすか,異なる視覚的動揺の条件の違いから検証したので報告する.
【方法】
 対象者は右利きの健常成人3名(38.7±6.12歳)とした.書面にて研究に対する説明を行い,同意を得て実施した.また,実験参加に際して,事前にVRを装着して不快な影響が生じないことを確認した.
 方法は対象者に端座位姿勢を取らせ,VIVEProを使用して2台の赤外線カメラを設置して,頭部にHMDを装着し,両手にコントローラーを把持させた.実験課題は先行研究(Peterson,2018)を参考にVR内に対象者から見える映像を前額面方向に20度回転させる課題とし,被検者には同一姿勢を保持するよう求めた.課題は角速度が8°/sec,20°/secの2条件とした.実験課題は3回繰り返し,課題開始前の安静時と課題中の両上肢の動きを3次元座標から移動距離を算出した. また,実験終了後にどの程度,平衡感覚の動揺を感じたか,VRに没入できたかを主観的尺度(VAS)で0から100点で評価した.
 統計解析はG*powerを用いてサンプルサイズを検証し,BootStrap法を用いて安静時及び2条件の課題時の移動距離のサンプル数を増幅した.増幅した結果,平均値及びSDに差がないことを確認し,安静条件,8°/sec条件,20°/sec条件の3条件を1元配置分散分析で比較した.
【結果】
 移動距離は安静時(右手3.91cm,左手3.03cm),8°/sec条件(右手6.58cm,左手5.26cm),20°/sec条件(右手11.40cm,左手9.88cm)の3条件で有意差を認め(p<0.00),安静時と比較して,8°/sec条件 ,20°/sec条件において有意に移動距離が大きかった(p<0.00).また,8°/sec条件と20°/sec条件間でも有意差を認めた(p<0.00).VASにおいては,平衡感覚の動揺は30.0±4.54点,没入感については31.3±5.18点であった.
【考察】
 本研究の結果より,VRを使用して視覚的動揺を生じさせ,平衡機能に対して影響を与えることが可能であった.視覚的動揺の条件としては急速な動揺がより平衡機能に影響を与えることがわかった.しかし,主観的尺度の結果では,平衡機能に対する動揺の程度は小さく,没入感も乏しいため,外部焦点のみでなく,内部焦点においても今後は検討する必要性を改めて示唆した.但し,対象者の気分の変調などはなく,VRを使用して視覚的動揺により平衡機能に影響を与えたことは,VRを用いた平衡機能に対する負荷トレーニングとして利用できる可能性がある.
 今後は視覚的動揺が生じた際の脳活動についても評価し,バランス能力に対するリハビリテーションとして安全かつ有用な方法を検証していく.