第58回日本作業療法学会

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ポスター

管理運営

[PQ-3] ポスター:管理運営 3 

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PQ-3-2] 作業療法士の就労継続要因に関する調査研究

藤田 さより, 飯田 妙子, 新宮 尚人 (聖隷クリストファー大学 リハビリテーション学部作業療法学科)

【はじめに】長年にわたりストレス社会といわれる日本においてうつ病などのメンタルヘルス疾患の罹患者は未だ増え続けている.厚生労働省の調査では, 国内の6割弱の事業所でメンタルヘルスに問題を抱えている社員がいると回答している.また令和4年度の労災申請状況における精神疾患に関する事案件数は,「医療・福祉職」が最も多い結果となった.医療・福祉の領域で大半が勤務する作業療法士も決してその例外ではないと考える.そのような現状を踏まえ,筆者はこれまで作業療法士のストレス要因について調査研究を行ってきた.その結果,職場の人間関係に関するストレス要因が最も多く,反対に患者に関するストレス要因は少なかった.また自己の能力に対する自信のなさを背景とする要因も多かった.これまでの研究結果を踏まえ,今後は,メンタルヘルスの不調に陥る前に安心して長く働き続けるための対策を明らかにする必要があると考えた.そこで今回,長く安定して同一法人で働き続ける作業療法士は就労継続のためにどのような要素が関係しているのかを明らかにしたいと考え,本研究を実施した.
【研究目的及び方法】本研究の目的及び方法は,同一法人で10年以上勤務する作業療法士(法人内の部署の異動は除く)に対し,半構造化インタビューを実施し,「作業療法士が安心して長く就労継続するために必要な要素」を明らかにすることとした.インタビューガイドは就労するために必要とされる経済性・社会性・個人性の3要素と先行文献を参考にして作成した.分析方法は,インタビュー内容をすべて逐語録に起こし,コード化し,さらに同質の内容毎に整理統合,カテゴリー化を行った.文析過程における確実性の検討には,確実性,適用性,一貫性,確証性の 4 つの基準を用い(Lincoln,1985),質的記述的分析を行った.尚,本研究の実施にあたり筆頭者の所属する機関の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】今回,13名の10年以上同一法人に継続して勤務している作業療法士に協力を得た.性別は男性4名,女性9名.勤務先は,精神・地域領域5名,高齢期領域2名,身体障害領域6名であった.
 分析の結果,作業療法士が長く働くための就労継続要因として15のカテゴリーが抽出された.人的環境面では,「尊敬する上司の存在」,「同じ夢をもつ同僚・後輩の存在」,「仕事をいつも互いに支え合える関係性」,「モデルとなる先輩の存在」,「趣味や余暇を共に楽しめる同僚の存在」の5つのカテゴリーとなった.職務面については,「やりたい仕事ができていること」,「理想とする作業療法を実践する職場であること」,「責任ある役割をもたしてもらえること」,「仕事の成果を認めてもらえること」の4つのカテゴリーであった.福利厚生面では,「出産・育児のサポート体制が充実している」,「休みの取りやすさ」,「余暇・趣味などの楽しみがあること」,「安定した給与」の4つのカテゴリーであった.その他「通勤しやすい距離」,「健康を維持するための自己のメンテナンス」の2つのカテゴリーであった.
【考察】今回,作業療法士が就労を継続する上で重要な要素として最も多く抽出されたのは人的環境面であり,特に上司・先輩の存在の大きさが影響していた.続いて業務上の役割があることややりたい仕事ができることなど業務面について多く述べられていた.つまり就労継続には,人的環境の整備,希望する仕事への配置,個々の能力に応じた役割分担等が必要であると考えられる.今回の結果を基にさらに発展的な研究を展開し,作業療法士が長く健康に安心して働くための具体的な方策の提案に繋げたいと考える.