第58回日本作業療法学会

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ポスター

教育

[PR-1] ポスター:教育 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PR-1-5] 相互共観で作業療法リーズニングを促進する

SA-CROTとインタビューによる有効性の検証

東川 邦和, 島田 愛理, 飯田 遥 (神戸健康共和会東神戸病院 リハビリテーション科)

【はじめに】2021年に作業療法リーズニングの臨床共観を行い「共観はリーズニングの成長に繋がる経験を省察する機会になる.作業療法士(以下OT)が主体となる共観の方法が求められている」ということが分かった.この知見を元に2023年は「相互共観」を行うことにした.これは「見られるだけでなく見る共観者として主体的な経験をすること」「ベテランOTの共観者に代わり作業療法リーズニングシートを使うこと」が特徴的である.本研究は当該施設倫理委員会の承認を得ている.
【目的】・相互共観で作業療法リーズニングがどのように促進されるのかを検証する・作業療法リーズニングシート(以下シート)の有効性を検証する
【方法】対象はOT11名(経験1〜37年,中央値6年)が,2023年5月〜8月に1人5〜6回のべ62回の相互共観を行い,見られる側と見る共観者の両方を経験する.①OTは事例のシートを作成②共観者は事前に読む③約20分間臨床場面を共観する④フィードバックを行う①~④までを共観とした.
共観期間前後でSA-CROT(作業療法のクリニカルリーズニング自己評価尺度)を実施,期間終了後インタビューガイド(・共観者としての体験・シートについて・共観の成果)に従い半構成的面接を行い,逐語録を作る.
分析方法;・SA-CROTの総得点を前後比較・逐語録をKH-Coderを用いて計量テキスト分析を実施・語の文脈の解釈とカテゴリー化の作業を共著者と行なう・これらを総合し前述の目的に対して結果を検討する.
【結果】インタビューした10名(1名除外)の逐語録をKH-Coderで共起ネットワーク分析し,クラスター内の語を解釈し,4つのカテゴリーを生成した.その中で主なカテゴリーの『作業療法への興味関心』と『リーズニングを使いこなす』の分析結果を示す.
『作業療法への興味関心』は「作業療法への興味」「他のOTへの関心」「ちゃんと伝える作業」のクラスターを含む.内包する意味は,見る見られるという対立する関係,他のOTの作業療法を見たい興味,見てくれる人がいるからちゃんと伝えたい気持ちなどである.
『リーズニングを使いこなす』は「難しいが書くと役立つ」「書く負担と成果」「症例発表や症例検討」を含む.内包する意味は,リーズニングの理解不足や情報収集の難しさ,時間が掛かり書くのが負担.シートに書くと科学的,物語的,実際的側面が明らかになり,倫理的側面の難しい事例を表現できる.症例検討や発表に使えるが書き慣れる必要がある.シートを改善する必要があるなどである.
経験別に1〜3年を初級,4〜9年中級,10年〜上級に分けて対応分析した結果,初級では緊張,先輩,やり方,慣れるなどの特徴語が現れ,「見るも見られるも緊張する,作業療法がすぐには理解できない,先輩のやり方やシートを見て理解している,リーズニングははじめ難しいが慣れが必要で徐々にできる」上級は確認,症例,発表,頭,教える,などが現れ,「書いたり見られることで自分のリーズニングが確かめられる,シートの内容が頭にありインテイクが進む」という意味が読み取れた.
SA-CROTの前後評価の結果(10名)をWilcoxon符号付順位和検定にかけると,共観前の得点の中央値32.00は共観後46.50に上がり,P=0.04883で有意な改善を示し,6/10名のリーズニングの自己評価が向上した.
【考察】相互共観では,共観者は見たいという興味を持って見ていることが分かり,受動的と捉えていた見られる側も伝えたいという主体的経験を含むことが分かった. SA-CROTの結果,相互共観は作業療法リーズニングの自己評価に良い影響を与えることが示唆された.シートは多面的なリーズニングを表現するのに役立つが,書き慣れる必要や時間が掛かる,シートの改善の課題があることが分かった.