第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

教育

[PR-1] ポスター:教育 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PR-1-6] CROT-Rを使用した臨床参加型実習の利点と課題点の検討

状況学習論的観点からの一考察

神保 洋平1,2, 藤本 一博2 (1.茅ヶ崎リハビリテーション専門学校, 2.湘南OT交流会)

【はじめに】
 近年,作業療法の臨床実習において学生の経験量と質の担保をすること,加えて実習指導の質の格差を是正することは作業療法養成課程において大きな課題となっている(OT協会2022).また,臨床実習の中で作業療法の臨床推論(作業療法リーズニング)を学生が理解することは作業療法の専門性や独自性を獲得する上で重要な機会である.学生が作業療法リーズニングを理解するために事例報告をまとめることは有用な教育プログラムである.一方で,一般的な作業療法の事例報告フォーマットは専門性を表現するには抽象度の高い項目立てとなっている.この課題点を受けて藤本(2022年)はClinical Reasoning OT Tool -Resume(以下:CROT-R)を開発した.本発表ではCROT-Rを用いた実習を経験した中での利点と課題点について検討し,状況学習論の観点から考察を述べる.
【方法】
 2022年10月〜2023年12月における本校の総合臨床実習においてCROT-Rを用いて実習を行った学生3名に研究協力の同意を得てフォーカスグループを行った.分析方法は質的記述的分析を行い,インタビューガイドから研究目的に沿う内容にコードを付与し,関連度の高いコードをカテゴライズした.その上でCROT-Rを用いた実習の利点と課題点について抽出した.研究協力者に対し,なお本研究において利益相反はない.
【結果】
 以下カテゴリーを『』,コードを「」で記載する.CROT-Rを通した実習は『実習運用上の利点』として「項目が具体的」,「実習スケジュールが管理しやすい」,「指導者の実習ガイドが具体的」である.また『作業療法教育上の利点』としてリーズニングにおいて「物語の重要性の認識」,「作業療法の機微への気づき」「目標設定の文脈的理解」「作業療法らしさの気づき」「べき論的主体思考からの脱却」「リーズニング伝達障壁の低減」が得られた.また『チームの中での作業療法理解』においては「チームとしての共通認識を踏まえたOT理解」「多職種との兼ね合いで調整されるOT」「多職種の文脈的理解」を経験していた.一方,『フォーマットの課題』としては「評価内容の関連性の表現」「項目の順序性」,『運用上の課題』としては「具体的項目立て故の時系列表現の難しさ」「伝えるツールとしては情報が過多」が上げられた.
【考察】
 CROT-Rを通した実習は,その形式が指導者と学生の共通の土台となり,道標の役割を果たしていた.また,作業療法実践において外形的なプログラムの実施に留まらず,環境設定や段階づけ,介入における対応の工夫など,作業療法のアート(技)に対する理解のきっかけになっていた.作業療法のスキルを身につけ,他の状況でも応用するためには,これらのアートの側面を実習という状況から切り取る必要があり,明示的指導(Explicit Instruction)を促進する特徴を有している.
物語の重要性の認識においては,「以前はニーズが聞ければ良い」や「聞き取る時間軸が短かった」のに対し,「生活文脈を理解した上で目標を設定できた」という変化が見られた.このことは,対象者の物語にフォーカスする項目があることで差異化(Distancing)が行われ,物語が対象者の目標設定に接続化(Connecting)することを促進したと言える.
またCROT-Rは関連職種の経過を追うことを設定している.作業療法の文脈に留まらず,目標達成に向けた関連職種の意図汲み取ることを促される,このことは作業療法の立場から多職種の文脈を理解する点において文脈横断的学習(香川2008)を促進していると考えられる.