第58回日本作業療法学会

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ポスター

教育

[PR-2] ポスター:教育 2 

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PR-2-7] 当院作業療法士の診療実施場所に関する意識調査

菊 修一郎 (社会医療法人愛仁会 尼崎だいもつ病院 リハ技術部作業療法科)

【序論】円滑な自宅退院,社会復帰を目指すには,患者が将来「するADL」を見据えた実用的なADL能力の獲得を促す必要がある.この目標達成には,入院中に患者の「できるADL」を「しているADL」として生活に定着させ習慣化する必要性があり,作業療法士は看護師との連携が欠かせない.連携する環境としては主に病棟での生活場面で行うことが最適と考えられるが,現状はリハビリテーション室(以下,リハ室)での診療が多い傾向がある.
【目的】当院作業療法科職員(以下,科員)の診療は,どの実施場所(リハ室・病棟)が多く,どのようなメリット・デメリットを意識して実施場所を選んでいるのか調査・分析を行うことで,環境特性の情報共有を行う.また,経験年数によってどのような意識の差があるのか,5年目以上と4年目以下で比較検討を行った.
【方法】2023年7月,科員34名を対象にMicrosoft office Formsを使用し,診療実施場所のメリット・デメリットについてアンケート調査を行った.質問は大きく3つ,(1)作業療法の実施場所,(2)実施場所のメリット・デメリット,(3) 「できるADL」と「しているADL」の乖離をなくすためには何ができるか,について行った.質問形式は自由記述式回答とした.なお,今回の発表は,所属施設の倫理審査委員会の承認を得ており,アンケート回答をもって同意を得たとしている.
【結果】アンケート結果より,(1)作業療法の実施場所は34名全員が主にリハ室を使用し,5年目以上は70%以上使用が最も多く,4年目以下は90%以上が多かった.(2)リハ室のメリットは「治療道具がある(56.9%)」が最も多く,5年目以上では「他療法士の介入状況が確認しやすい」「患者のピアカウンセリングになる」等の教育的視点,4年目以下では「急変時に周囲に助けを求めやすい」のリスク管理に関する意見が特徴的であった.リハ室のデメリットは「移動に時間がかかる(31.4%)」「患者の注意がそれやすい(25.7%)」が多く,5年目以上では「しているADLに繋がらない」「患者が機能回復・機能訓練に固執する」「患者が退院後の生活をイメージできない」等の退院支援の阻害因子となる意見があったが,4年目以下では全くなかった.病棟のメリットは「他職種との情報共有・連携が行える(30.4%)」「しているADLに繋がる(28.3%)」などの意見があったが,「患者が退院後の生活をイメージできない」の意見は5年目以上だけであった.病棟のデメリットは「治療道具がない(59.5%)」が半数以上を占め,「スペースが狭くできることが限られる(16.2%)」,4年目以下では「急変時に周囲に助けを求めにくい(13.5%)」が多かった.(3)「できるADL」と「しているADL」の乖離をなくすために何ができるかは「情報共有(55.3%)」が最も多かった.
【考察】今回の調査では,科員の多くがリハ室で診療していることが分かった.また,診療実施場所は治療道具の有無や移動時間,患者のリスク管理等,科員の診療のしやすさで選択されている傾向が強いと考える.特に,4年目以下の科員においては,リハ室での診療が患者の状況によっては機能回復や機能訓練の固執につながったり,退院後の生活をイメージできなくなるなど,退院支援の阻害因子についての認識がなかった.「できるADL」と「しているADL」の乖離をなくすためには多くの科員が情報共有は必要であり,その共有場所は病棟が最適と理解していながらも,診療場所はリハ室が主体となっていた.今回の調査を契機に,環境特性がどのように患者に影響を及ぼすのかを理解し,病棟での実際のADL練習を通じて多職種連携を深めることが,患者の円滑な自宅退院,社会復帰に繋がると考える.