第58回日本作業療法学会

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教育

[PR-9] ポスター:教育 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PR-9-1] 社会人経験者が作業療法士養成校入学に至るプロセスについて

複線径路・等至性モデル(TEM)を用いた分析

谷渕 加奈子, 山下 良二, 馬場 広志 (専門学校穴吹リハビリテーションカレッジ 作業療法学科)

【序論】
 わが国では社会人の学びであるリカレント教育を推進しており,学校教育からいったん離れたあとも,それぞれのタイミングで学び直し,仕事で求められる能力を磨き続けていくことがますます重要になっている(厚生労働省).全国の作業療法士(以下OT)養成校における全入学生のうち,2.82%が26歳以上であり((一社)日本作業療法協会,2022),一定数の社会人経験者が入学している状況である. 社会人経験者は多様な背景をもちながらOT養成校に入学しているが,どのようなプロセスでOTという職業を選択して入学に至るのか明らかにしている先行研究はない.本研究の目的は,社会人学生の入学動機について把握することであり,社会人経験者がOTを志望して入学に至るまでのプロセスを明らかにし,個別性・多様性を持つ社会人の入学支援に活かしていくことである.
【対象と方法】
 研究デザインとして複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model;以下TEM)を採用した.OT養成校に入学することを等至点として定め, 3年制OT養成校に在学中で社会人経験がある2年生4名を対象とし,半構造化インタビューを実施した.なお,質問項目は同じ経験を持つ教員と内容を検討したものを用いた.インタビュー終了後,ICレコーダーに録音したデータから逐語録を作成し,逐語録を精読して各自のTEM図を作成した後に2回目のインタビューを行い,試作したTEM図を対象者に提示しながら,解釈に不足はないか,対象者の意思が反映しているか,確認・修正を行った.3回目のインタビューでは対象者それぞれのTEM図を統合し,統合したTEM図についても対象者に確認する機会を設けてTEM図を完成した.なお,対象者には口頭と書面で研究主旨を説明し,同意を得ている.
【結果】
 対象者4名は当初,会社に就職して仕事にやりがいを持って働いていたものの,仕事を続けていくなかで自分自身を見つめ,将来について考える過程で“将来に対する迷いや不安”が生じた(必須通過点).そのような状況で“OTを周囲から勧められた”り,“間接的にOTを知る機会”があったりしたことが契機となってOTについてインターネットや書籍で調べることとなった(必須通過点).そこから“OTは国家資格であり,安定があることに魅力を感じる”ことや,OTの職業的魅力に触れて“人の役に立ちたい・自己実現したい想いが強まる”ことでOTを目指したい思いを高めた.また “経済的見通しがもてる”(必須通過点)ことが受験を決意し,OT養成校を受験(必須通過点)し合格したことによって,“OT養成校に入学する”という等至点に至った.
【考察】
 仕事環境の変化や停滞によって,模索や葛藤があり仕事人生を振り返ることで学び,出会いへの欲求へと動機づけられる(三好,2021)とあるように,対象者は将来に対する迷いや不安が生じ,今後に対して考えていく時期にOTの仕事を知る機会を得たことがOTを目指す動機となり,詳しく調べるという行動につながった事が窺われた.また,OTの職業的魅力を実感するなかで,“自身の社会人経験や得意分野を活かせる”という確信が持てたことで受験を決意するに至ったことが示唆された.以上の事からOT養成校では,OTを目指す社会人経験者が有する個別の背景を把握し,社会人経験で得られたスキルを活かしながらOTになることが出来る,という具体的なビジョンが持てるような支援が必要と考える.