第58回日本作業療法学会

講演情報

市民公開講座

[PUL] 健康まちづくり

2024年11月10日(日) 10:15 〜 11:45 A会場 (特別会議場)

座長:仙石 泰仁(札幌医科大学保健医療学部 作業療法学科)

[PUL-1] 健康まちづくりー自然に健康になれる環境づくり

近藤 克則 (千葉大学 予防医学センター/医療経済研究機構)

 2024年度から始まった国民健康づくり運動「健康日本21(第3次)」(厚生労働省)に新しく加わった考え方が「自然に健康になれる環境づくり」である。本講演では、健康「まち」づくりの必要性や具体例を紹介し、その可能性を伝えたい。
 私たちが取り組む日本老年学的評価研究(JAGES)2019調査に参加した64市町村に暮らす、要介護認定を受けていない約20万人を対象に、要介護状態の一歩手前のフレイル該当者割合を調べてみると、前期高齢者に限定しても、約5%〜13%まで、なんと2.6倍もの市町村格差があった。つまり、多いまちに比べ、フレイル割合が半分以下の「健康なまち」があった。車が中心のまちでは人は歩かず、電車・バスや歩きやすい歩道や公園がある環境で人は歩く。社会参加や人々の交流が多いまちでは、メンタルヘルスが良く、フレイルも少ないことがわかってきた。つまり健康な「人」づくりでなく、このような環境づくりを進めることで「健康まちづくり」がありうるとわかってきたのだ。だから「健康日本21(第3次)」で、「自然に健康になれる環境づくり」が謳われた。
 しかし、環境は個人の努力だけでは変えられない。では、どうしたら実現できるか。答えは産官学民連携にある。「官」が都市・事業計画を打ち出し、「産」がサービス・環境を提供し、「民」がイベントなどを盛り上げ、作業療法士など専門職・研究者が担う「学」が科学的根拠を社会に還元し、産官民を支援し、連携したまちづくりの効果を評価する。これらが噛み合った時、暮らしているだけで「自然に健康になれる健康まちづくり」が実現する。
 作業療法士など、リハビリテーション専門職は、今までも住宅に手すりをつけるなどの改修によって、障害を持った方の在宅生活を支援してきた。今後は、住まいだけでなく、近隣環境や地域社会のあり方について、またハード面だけでなく、社会参加や交流をしやすい活動などのソフト面の環境も含めて、研究し、その成果を社会に発信し、産官学民が連携した取り組みに参加し、その効果を評価していく。市民の皆さんと共に、健康まちづくりの一翼を担っていきます。