第58回日本作業療法学会

講演情報

企画セミナー

[S-8] 企画セミナー8
日本作業療法研究学会

2024年11月9日(土) 18:10 〜 19:10 H会場 (207)

司会:米田 貢(金沢大学医薬保健研究域保健学系)

[S-8-1] リハビリテーションにおける運動学習: 効果的な介入のための理論と実践

米田 貢1,3, 小池 康晴2, 中嶋 理帆3, 菊池 ゆひ3 (1.金沢大学医薬保健研究域/金沢大学医薬保健研究域保健学系, 2.東京工業大学 科学技術創成研究院, 3.金沢大学医薬保健研究域保健学系)

作業療法士は患者の生活の改善,適応を図るために学習機構を理解した上で治療計画を立案する必要があります.ここでいう学習は単に何かを学ぶ,知識を得るということではなく,脳の細胞・神経回路レベルで起こっているシナプス可塑性による機能変化を意識しています.では脳内の学習回路の理解が深まるとどのように臨床に役立つでしょうか.近年の神経科学研究により計算論的なモデルからみた運動学習回路には大脳皮質系の教師無し学習,大脳基底核系の強化学習,小脳系の教師有り学習の3つのモジュールが知られており,それぞれの回路がどのような課題要素に依存するかがわかっています.仮にこれらの回路の機能性が個々の患者さんで評価できたならば,作業療法士が考える治療計画の質,治療効率性が患者さんとってより良いものになると期待できます.
例えば脳に損傷を負った場合,脳内では様々な機能が影響を及ぼし合い,その結果として運動,精神,高次脳の機能低下が現れると考えられます.その時,脳内では正常に働いている機構と損傷された機構が共存するため,それらアンバランスを解消しようとしています.臨床場面でみられる患者さんの回復は脳内の学習機構を利用した再適応がなされている訳です.回復が進まない場合,作業療法士だけでなく,自分の身体であるにもかかわらず患者本人もどのようにしたら良いかがわからないのです.3つのモジュールがどのように獲得されるのか、その時に必要となる情報が何かがまだわかっていないため、機能低下に対して適切な作業療法がどのようなものかがわからないのです.
本セミナーでは,脳内の学習機構に関して研究をされている4名の先生に登壇いただき,臨床で抱える「患者さんがなかなか良くならない」「治療が上手く行っていないのでは」等の悩みの解決に役立つようにヒントや提言をいただきます.
具体的には,①脳内の運動学習の計算論的モデル,②脳損傷患者の脳機能シフト,③臨床でも行えるIoT機器による運動学習機構の評価,④学習の阻害と促進の要因についての4つです.特に大脳基底核系では,手順を覚える(目的志向行動)とスムースにできる(習慣化)の強化学習の理解と段階付けの際に生じる回路のシフトやスイッチングについて,小脳系では感覚情報を予測に用いたフィードフォワード制御による内部モデルの獲得と教師有り学習について理解を深めていただけると期待します.