日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS02_29AM2] Data Assimilation in Earth Sciences

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:41 314 (3F)

コンビーナ:*石川 裕彦(京都大学防災研究所)、余田 成男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、榎本 剛(京都大学防災研究所)、パク ソンキ(梨花女子大学)、呉 俊傑(国立台湾大学)、宮崎 真一(京都大学理学研究科)、石川 洋一(海洋研究開発機構)、座長:榎本 剛(京都大学防災研究所)

11:00 〜 11:20

[AAS02-07] 海洋・気候研究のためのデータ同化

*石川 洋一1西川 史郎1増田 周平1豊田 隆寛2杉浦 望実1若松 剛1西川 悠1佐々木 祐二1五十嵐 弘道1田中 祐介1淡路 敏之3 (1.海洋研究開発機構、2.気象研究所、3.京都大学)

データ同化手法は数値天気予報のための初期値化を行う手法として発展してきたが、近年他の分野への応用が積極的に行われている。海洋分野でもいわゆる「海の天気予報」とよばれる海況予報に加えて、データ同化を利用したいくつかのユニークな研究が進められている。本講演ではそのような海洋・気候分野で特徴的なデータ同化を利用した研究についていくつか紹介したい。 その1つが海洋研究開発機構で開発を進めている4次元変分法を用いた大気海洋結合データ同化システムである(Sugiura et al., 2008)。このシステムは季節から経年変動スケールをターゲットとした統合データと季節予報のための初期値作成を目的としたものであり、大気海洋結合モデルに対するアジョイントモデルを用いて、大気・海洋双方の観測データを整合的に同化することを可能としている。中でもこのシステムに特徴的な点は、季節から経年変動という比較的長いスケールを対象としているので、海洋の初期値に加えて、大気海洋間のフラックスを修正するために、バルク係数についても制御変数として推定していることがあげられる。これにより、大気の下部境界条件が修正され、大気海洋結合系の季節スケー変動の再現性が向上していることが示された。現在は、このシステムに海洋低次生態系モデルの組み込みも行われ、物理変数だけでなく海洋中の生物化学プロセスについての季節予報も行うことが出来るようになっている。 海洋の長期間の解析データセットについても興味深いシステムが開発されている。4次元変分法を用いた海洋データ同化システム(Masuda et al., 2010)は、いわゆる強拘束条件を用いることにより数値モデルの力学を完全に満たしながら50年間の海洋観測データの同化を行っており、作られた統合データセットは、気候変動研究のための様々な解析に用いることができる。特に、数値モデル力学を完全に満たしているということは、再現された水温場などが保存則を満たしていることを意味しており、海洋中の3次元的な水・熱輸送の時間変動、すなわち4次元的な水・熱フローの解析に非常に適している。また、数値モデルの力学を満たしているという特徴はトレーサー解析にも有効であり、これを利用して海洋生態系モデルの物理環境場としても利用することにより、物質循環プロセスの解明にも役立てられている。 海洋低次生態系モデルに対するデータ同化も、海洋中の炭素循環などの生物化学過程を再現するために、近年非常に注目されている研究テーマである。生態系モデルでは用いられているパラメータの推定が難しく、また地域によっても異なると考えられていることから、データ同化によってモデルパラメータを推定する試みが行われ、現実的な生物化学過程の再現に成功している(Toyoda et al., 2013.)。 以上のように、データ同化システムはモデルの初期値化だけでなく、パラメータ推定や長期間の状態推定など幅広い応用をみせており、これらの利用方法は特に様々な分野への展開を考える際には非常に有益な情報となるであろう。