日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS21_30PM1] 成層圏過程とその気候への影響

2014年4月30日(水) 14:15 〜 16:00 313 (3F)

コンビーナ:*宮崎 和幸(独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域)、田口 正和(愛知教育大学)、河谷 芳雄(独立行政法人海洋研究開発機構)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、座長:宮崎 和幸(独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域)

15:00 〜 15:15

[AAS21-17] FTIRで観測されたつくば上空HCl, HF全量の再増加

*村田 功1中島 英彰2森野 勇2秋吉 英治2 (1.東北大学大学院環境科学研究科、2.国立環境研究所)

キーワード:フーリエ変換型分光計, 大気微量成分, フロン

東北大学と国立環境研究所では、国立環境研究所所有の高分解能フーリエ変換型赤外分光計(FTIR)を用いて、つくばにおいて1998年12月よりオゾンをはじめとする大気微量成分の地上観測による研究を行っている。今回はHCl, HF全量の経年変化について新たな傾向が見られたので報告する。HCl, HFはそれぞれ塩素、フッ素の主なリザーバー分子であり、ともにフロン類の分解が主な生成要因で成層圏に多く分布する。そのためフロン規制によるこれらの成分の変化、特にHClの変化はオゾン層回復の観点から注目されている。観測は期間によって異なる分光計を使用しているが、波数分解能はいずれも0.0035cm-1で解析にはスペクトルフッティングプログラムSFIT1を用いている。各スペクトルから求めた全量は観測日毎に平均し、この経年変化を調べた。観測結果はHCl、HFとも春極大・秋極小の季節変化を示すが、経年変化に注目すると、HClは1999年から2001年にかけてはやや増加しているように見えるが、2003年以降は減少し、2007年頃から再び増加している。HFは1999年から2002年にかけてはやや増加しているように見え、2003年からはほぼ横ばい、そして2007年頃以降は明らかに増加している。そこで、2001-2006年と2007-2013年の2つの期間に分けてサイン関数(季節変化)と直線(経年変化)でフィッティングしてみると、HClはそれぞれ-1.8%/yr, +1.0%/yr, HFはそれぞれ+0.3%/yr, +2.5%/yrの経年変化となった。2000年代に入ってからの成層圏HClの減少はHALOEやACEなどの衛星観測でも見られており、フロン規制による成層圏塩素量の減少が観測されたものと考えられているが、将来予測では成層圏の塩素量はそのまま減少し続けるとされており、これが再び増加に転じたとなるとオゾン層回復が遅れることにもつながると考えられる。HCl, HFが増加に転じた原因としては、ひとつには大気輸送の変化が考えられる。全球化学輸送モデルを用いたシミュレーションによれば、気象場を観測値に固定しないモデルでは2000年代を通してHClコラムが減少し続けるのに対し、気象場にERA-interimを用いると2008年頃から減少が止まる結果が得られており、大気輸送に何らかの変化があったようである。近年ブリューワー-ドブソン循環に変化が見られるという報告もあるが、こういったものと関連があるのかなど具体的なメカニズムについてはまだ不明である。もうひとつには代替フロンとして使われているHCFC(Cl, Fを含む)やHFC(Fのみ含む)の排出量が増加しているため、これらが対流圏で分解されないうちに成層圏まで運ばれる量が増加したことも考えられるが、こちらについてはまだ証拠となるような観測はない。