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[AAS22-01] フーリエ変換型赤外分光計で観測された日本上空における北極オゾン層破壊の影響
キーワード:フーリエ変換型分光計, 北極オゾン破壊, 中緯度
極域におけるオゾン層の破壊は南極だけではなく北極においても発生しており、2011年には観測史上最大のオゾン層の破壊が確認された。オゾン層の破壊自体は極域の極渦内部で起きる現象であり、人が多く住む中緯度域に直接影響を与えることは少ない。しかし、下部成層圏においてオゾンを再生する化学反応は存在しないため、極渦が崩壊するとオゾン破壊の起きた空気塊が拡散し中緯度域におけるオゾンの量は減少するはずである。そこで本研究では、つくば・陸別上空における極渦崩壊前後のオゾン量を比較することによって、北極オゾン層破壊が日本にどの程度影響するかについて調べることを目的とした。オゾン層の破壊は化学反応が原因で起こるが、オゾンの変動要因には力学的変動も含まれているため、オゾン層の破壊の影響を調べるためにはこの力学的変動分を排除しなければいけない。そのために化学的に安定なHFやN2Oをトレーサーとし、O3-HF相関やO3-N2O相関を調べることによって北極オゾン層破壊の影響を調べた。解析には、つくばの国立環境研究所に設置されているFTIRおよび陸別に設置されている名古屋大学太陽地球研究所のFTIRの観測スペクトルを用い、高度分布導出にはスペクトルフィッティングプログラムSFIT2を使用した。つくばに関しては2006年10月~2013年5月のO3・HFの高度分布、陸別に関しては国立環境研究所が解析した1997年10月~2008年7月のO3・HF・N2O高度分布を使用した。O3-HF相関やO3-N2O相関の直線フィッティングを決める際に必要なパラメータは傾きとオフセットである。O3-HF相関の傾きについては使用する極渦崩壊前の全てのデータを用いてフィッティングした際の傾きを用いた。オフセットは化学破壊量を推定するのに重要であるため、極渦崩壊前のO3-HF相関の取り方については全ての年を通して同じ値を用いる方法Aと年ごとにフィッティングをする方法Bの2つの方法を用いて結果を比較した。極渦崩壊後のオフセットは年ごとにフィッティングを行い、極渦崩壊前の相関のオフセットとの差を「オゾン変化量」とした。O3-HF相関は下部成層圏のいくつかの高度とコラム全量について求め、その結果からオゾン変化量の年ごとの違いを見たところ、高度19kmや21km、コラム全量について北極オゾン層の破壊が大きい年の方が極渦崩壊後のオゾン変化量が大きい傾向が見られた。O3-N2O相関に関しては、N2Oの解析の感度が下部成層圏にはなかったためコラム全量のみ相関を取った。O3-N2O相関の直線フィッティングは、年ごとのフィッティングでもかなり相関が良く、傾きやオフセットを一定にしてしまうと明らかに合わない年も出てきてしまったため極渦崩壊前のO3- N2O相関は傾きとオフセットの両方について年ごとにフィッティングを行った。崩壊後のO3-N2O相関は、傾きは極渦崩壊前の値を用いてオフセットだけフィッティングを行った。するとO3-N2O相関についても北極オゾン層破壊の大きい年の方が、オゾン変化量が多い傾向が見られた。北極オゾン層の破壊の規模とオゾン変化量との間に関係が見られそうだったので、両者の相関を取った。北極オゾン層破壊量の定量化は難しく、標準的なやり方があるわけではないため、気象庁[2012]とPommereau et al. [2013]、 Rex et al. [2013]の3つの指標を用いてそれぞれ比べた。北極オゾン層の破壊量とオゾン変化量の相関からどの方法や指標を用いるのが妥当かについて考察したところ、方法・指標の両方ともどの方法が最も妥当か判断ができるほどの差はなかった。そのため、すべてに共通して見られる特徴から判断し考察することにした。その結果、つくばでは高度21km、陸別では高度19kmにおいて北極オゾン層の破壊量と極渦崩壊後のオゾン変化量との間に良い正の相関が見られた。コラム全量のO3-HF相関やO3-N2O相関においても同様に正の相関が見られた。観測地点によって相関の見える高度が異なった結果については、成層圏では大気が等温位面に沿って移動しその等温位面は低緯度に行くにしたがって高度が上昇することと、北極オゾン破壊が下部成層圏の限られた高度範囲で起こることを考えるとこの結果は妥当であると考えられる。この結果を用いて、日本上空における化学的なオゾン破壊量に対しどのくらい紫外線量が増加するかについて調べた。オゾン全量の化学的変化量を見積もったところ、つくばは最大約30DU、陸別は最大約40DUだった。そこでつくばにおいてはオゾン全量変化量が30DU減少した時とその中間値にあたる15DU減少した時の紫外線増加量、陸別においてはオゾン全量変化量が40DU減少した時とその中間値にあたる20DU減少した時の紫外線増加量について調べた。その結果、中間値で見てもつくばでは約6.0%の紫外線が増加し、陸別では約7.0%の紫外線が増加することが分かった。