日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS22_30PM2] 大気化学

2014年4月30日(水) 16:15 〜 18:00 511 (5F)

コンビーナ:*竹川 暢之(東京大学先端科学技術研究センター)、澤 庸介(気象研究所地球化学研究部)、金谷 有剛(独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域)、高橋 けんし(京都大学生存圏研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:松井 仁志(海洋研究開発機構)

16:45 〜 17:00

[AAS22-03] タグ付きトレーサー実験を用いて検証された空気隗分類手法による地表オゾン起源推定の妥当性

*永島 達也1池田 礼佳2須藤 健悟3林田 佐智子2 (1.国立環境研究所、2.奈良女子大学、3.名古屋大学)

東アジア地域における広域越境大気汚染が深刻化する中、地域内における大気汚染物質のやり取りを定量的に把握すること、すなわち大気汚染物質の起源推定を行うことの重要性は論を俟たない。様々な場所で観測される大気汚染物質の濃度に対して、それをもたらした空気隗の通過経路を後方流跡線解析で見積もり、当該空気隗が多くの時間を滞在した領域をもってその汚染物資の起源とみなし、空気隗の起源を分類する手法(空気隗分類手法)が従来から広く用いられてきた。これにより、起源毎に異なった濃度や季節変化を持つ空気隗の特徴が明らかにされ、東アジア地域における大気汚染の構造理解に大きな役割を果たしてきた。しかしながら、ある領域内で同じだけの滞在時間を経験した空気隗であっても、それが受ける化学的な影響は、領域内での通過経路の違いや季節の違いなどの条件により異なることが予想される。つまり、空気隗の通過領域と滞在時間だけで起源領域を推定する手法では、本当は余り影響を受けていない領域を誤ってその空気隗の起源と判定してしまう可能性がある。本研究では、地表オゾン対象として、こうした過誤の可能性、すなわち空気隗分類手法によって汚染空気隗の起源を推定する手法の妥当性の検証を目的とする。そのために、大気組成の全球分布を再現することができる化学輸送モデル(CTM)を用いたタグ付きオゾントレーサー実験の結果を利用する。タグ付きオゾントレーサー実験では、モデル大気を幾つかの領域に分割して、それぞれの領域でのみ化学的に生成される仮想的なオゾントレーサーの濃度を計算し、それぞれのトレーサーの濃度をもってその領域を起源とするオゾンの寄与とみなす。すなわちモデルの内部では、あらゆる場所においてオゾンの起源毎の寄与が把握されており、このモデル大気内で空気隗分類手法による起源推定を行って、その結果とタグ付きトレーサーによって把握されている各起源の寄与を比較することにより、空気隗分類手法の妥当性を評価する。 タグ付きトレーサー実験には、全球規模のCTMであるCHASERを使用し、まずはモデル大気中におけるオゾンの計算値 が実際の大気状態を再現しているかを調べるために、モデル大気内での空気隗分類結果と日本におけるオゾンゾンデ観測を用いた空気塊分類結果の比較を行い、良好な再現性を確認した。次に、モデル大気内における両手法の起源推定結果を比較するため、日本に到達する中国起源のオゾンに注目した。日本の4地点(札幌、つくば、鹿児島、那覇)において空気塊分類手法によって中国からの空気隗と判定された場合、タグ付きトレーサー実験によって推定されたオゾンの起源毎の寄与においても中国領域起源のオゾン寄与が高くなると予想を立てたが、タグ付きトレーサー実験から推定された中国領域起源オゾンの寄与にはケースごとにばらつきが見られ、必ずしも中国領域起源のオゾン寄与が優勢となるわけではなく、その優勢度には大きな違いの存在することが分かった。特徴して、暖候期には両手法による起源推定の結果は一致することが比較的多く、空気塊分類手法でも中国を起源とする空気隗を的確に判定する可能性が高いものの、寒候期においては、中国より更に遠方の領域を起源とする空気塊を、誤って中国起源と判定してしまう可能性が高くなることが示唆された。今回採用した空気隗分類手法では、中国上空に48時間以上滞在した空気隗を中国起源と判定しているが、寒候期ではより十分に(~100時間以上)中国領域内で滞在した場合でない限り、タグ付きトレーサー実験による中国寄与が優勢とはならなかった。一方、暖候期では48時間以上という閾値の設定は比較的上手く中国起源を分別できているといえる。これらの結果から、空気隗分類手法においては起源分類の際の経過時間の閾値の設定を少なくとも季節ごとに変更する必要性のあることが示唆された。