日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS22_30PM2] 大気化学

2014年4月30日(水) 16:15 〜 18:00 511 (5F)

コンビーナ:*竹川 暢之(東京大学先端科学技術研究センター)、澤 庸介(気象研究所地球化学研究部)、金谷 有剛(独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域)、高橋 けんし(京都大学生存圏研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:松井 仁志(海洋研究開発機構)

17:30 〜 17:45

[AAS22-06] エアロゾル散乱全角度分布同時計測装置の開発と様々な非球形粒子の測定

*中川 真秀1笹子 宏史1中山 智喜1松見 豊1上田 紗也子1 (1.名古屋大学太陽地球環境研究所)

[はじめに] エアロゾル粒子の地球温暖化への寄与の不確定性は大きく、それを解決するにはエアロゾルの光学特性を正確に測定する必要がある。不確定性は粒子の粒径、複素屈折率、形状に依存するため、これらの要素が不確定性を大きくさせている要因の一つと言える。エアロゾルの光学特性パラメーターの一つとして、散乱の角度分布(位相関数)がある。散乱の角度分布は、入射光の偏光方向により異なることから、異なる偏光方向に対する散乱の角度分布を測定する必要がある。そのため、単一粒子について平行偏光と垂直偏光を同時に測定できるようなマルチチャンネル型のエアロゾル散乱全角度分布同時計測装置を開発した。[計測装置の概要] 開発した装置はYAGレーザーの第二高調波(λ= 532 nm)の緑色のレーザー光を使用しており、エアロゾル粒子が流れる導入管を二重にし、外側にシースフローを流すことで、導入された粒子の空間的な広がりを抑えている。粒子は検出器中心でレーザーと当たり、その散乱光強度が前方散乱11.74度から後方散乱167.26度まで約8.3度の角度分解能で検出される。本装置では、レーザー光の偏光面と垂直および平行面上の散乱光の角度分布が同時に測定できる。また、時間平均した多粒子の光散乱角度分布を測定することができるだけでなく、100 Hzという高い時間分解能の計測により1つ1つの粒子の水平垂直偏光面の角度分解散乱強度を測定できる。この装置を使用して、Rayleigh散乱およびMie散乱領域での散乱の角度分布を測定した。Rayleigh散乱領域での測定のために使用したガスは二酸化炭素と代替フロン(HFC-134a)であり、Mie散乱領域での測定に使用した粒子は、非光吸収性球形粒子であるポリスチレンラテックス(PSL)粒子、光吸収性球形粒子であるニグロシン粒子、および非球形粒子の塩化ナトリウム粒子である。これらの散乱角度分布を計測し、Mie散乱理論とモンテカルロ計算を組み合わせることで、各検出器の検出効率と検出される散乱角度幅を考慮したシミュレーション結果と比較した。実験装置は、粒子生成、粒径選別、粒子の散乱角度分布の測定を行う3つの部分からなる。粒子はネブライザーを用いて発生させ、拡散ドライヤーで水分を除去した後、微分型静電分級器とエアロゾル質量分級装置で粒径選別した。得られた単分散粒子を散乱全角度分布計測装置に導入し、レーザーの偏光面と平行および垂直面における散乱角度分布を計測した。[性能評価試験] 散乱光の計測においては、散乱点(レーザー光路と導入された粒子が交差する部分)や検出点(検出器の面積)が点でないため、散乱された光子のうち各検出器に到達する光子の割合(検出効率)や各検出器で検出される散乱角度の幅(角度分解能)は、検出器(散乱角度)により異なる。そこで、モンテカルロ計算によりこれらの効果を推定した。計算では、散乱点(原点)の位置をレーザー光線上の設定した範囲のランダムな位置とし、散乱点から単位球面に対しランダムな散乱光線を数千万回発生させ、散乱光がそれぞれの検出器の受光面に何回当たったか(ヒット回数)を調べた。このヒット回数の違いを用いて、各検出器の検出効率の違いの影響を除去し、各検出器の感度のバラつきを推定したところ、各検出器の感度は±14%の範囲内で一致することがわかった。様々な粒径のPSL粒子(選別直径151から903 nm)の複数粒子の平均と単一粒子による散乱角度分布を測定した結果、Mie散乱理論と各受光器の効率と検出できる散乱角度幅を加味した理論的なシミュレーションによる散乱角度分布により予想される波動干渉による波状のパターンが再現できた。ニグロシン粒子を用いた光吸収性球形粒子は、文献値であるn = 1.63 + 0.24 iの理論曲線の散乱角度分布と最もよく一致した。その結果、複素屈折率の実部および虚部を決定でき、散乱角度分布測定から光吸収の大小が区別することができることがわかった。また、形状の違いによる影響について調べるため、立方体に近い形状をしていると考えられる塩化ナトリウム粒子や不規則形状のススの散乱角度分布の計測も行っている。本発表では、粒子の非球形性の推定についても、議論する予定である。