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[AAS22-09] 夏季の沖縄県辺戸岬における降水中のブラックカーボン粒子濃度の支配要因
キーワード:ブラックカーボン, 湿性沈着
化石燃料などの不完全燃焼によって大気中に放出される黒色炭素粒子(ブラックカーボン:以下BC)は、特に東アジア域において多く排出されており、気候に強い影響を与える。BCの空間分布は発生、輸送、除去の過程に支配され、主に降水によって大気から除去される(湿性除去)。BCの湿性除去過程は非常に複雑であり、従来のフィルター抽出法や熱分離法によるバルク測定1)、定量性に不確定さがあることから、個々の降水イベントにおける降水中のBC濃度の支配要因の理解は不十分であった。そこで本研究では、中国大陸起源の汚染空気塊の下流域にあたる沖縄県辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーションにおいて、2010年4月から2013年3月までの3年間にわたって大気中のBC濃度と降水中のBC濃度の同時観測を行い、特に沖縄の夏季(6月~8月)の降水イベントにおける降水中のBC濃度の支配要因を定量的に理解することを目的とした。大気中のBC濃度(MBC)は、ブラックカーボンモニタ(COSMOS)を用いて、連続的に測定された。また、降水中のBC濃度(CBC)は、降水試料から粒子を抽出する超音波式ネブライザーとレーザー誘起白熱法によるBC分析装置(SP2)を組み合わせた方法2)で測定された。 沖縄の夏季は、積乱雲によるローカルな対流が起こる降水イベントが頻繁に起こることが知られており、降水開始前の地上のMBCはCBCに影響すると考えられる。しかし、夏季の全降水イベントにおいて、降水開始1時間前のMBCとCBCの相関を調べたところ、両者の間には相関が見られなかった(r2 = 0.12)。そこで、強い対流の降水イベントを抽出するため、大気が不安定な状態を表す指標である対流有効位置エネルギー(CAPE)を用い、CAPEがゼロ以上の降水イベントを抽出した。CAPEを算出するために6時間毎のNational Centers for Environmental Prediction (NCEP) の再解析データを用いた。その結果、降水開始1時間前のMBCとCBCの間に良い相関が見られ(r2 = 0.47)、沖縄県辺戸岬における非常にローカルな対流による降水イベントでは、MBCとCBCの間に良い因果関係が見られた。次に、地上のMBCと水蒸気量(mv)からCBCの推定式が作れるかどうかを、観測したCBCと比較することによって検証した。MBCは降水開始1時間前のデータを使用した。水蒸気が水滴に変換された量の算出は降水開始1時間前のmvとNCEPの再解析データを使用した。いくつかの仮定の下、空気塊のBCと水蒸気の混合比が平衡高度まで保存し、平衡高度以上で水蒸気が凝結しないとすれば、水蒸気から水滴に変換した量は平衡高度において最大となる。平衡高度におけるCBC を(1)式で表されると考えられる。Estimated CBC=大気中のBC濃度 / 水蒸気から水滴に変換された量 (1)観測したCBCとEstimated CBCの間には良い相関が見られたことから(r2 = 0.68)、(1)式は水蒸気が平衡高度まで凝結成長した際のCBCであることが確かめられた。観測したCBCはEstimated CBCよりも、約3倍高かった。これは、平衡高度まで到達せずにBCが降水によって除去された可能性などが考えられる。1)Ogren J. A., Groblicki P. J. and Charlson R. J. (1984). Measurement of the removal rate of elemental carbon from the atmosphere. Sci. Total. Environ., 36 :329-338.2)Ohata, S., N. Moteki, J. Schwarz, D. Fahey, and Y. Kondo. (2013). Evaluation of a method to measure black carbon particles suspended in rainwater ad snow samples. Aerosol. Sci. Technol., 47, 10 : 1073-1082.