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[AAS22-19] 大気-森林間の酸素と二酸化炭素の交換比の観測に基づく森林の生態系呼吸量と光合成量の分離評価
キーワード:大気中O2/N2比, 大気-森林間O2:CO2交換比, 光合成, 生態系呼吸, 森林炭素収支
大気中O2濃度(δ(O2/N2))の高精度観測は全球CO2収支推定の有力な手法であり、1990年代初頭より全球的な観測が展開されている(e.g. Manning and Keeling, 2006)。δ(O2/N2)を用いた全球CO2収支解析には大気-陸上生物圏間の平均O2:CO2交換比(ER = -O2:CO2 molar exchange ratio)が必要であり、初期の研究ではKeeling (1988)により各種有機物の元素存在度分析結果に基づいて報告された1.05の値が、近年の研究ではSeveringhaus (1995)により改訂された1.1の値が広く用いられている。しかしながら、Seibt et al. (2004)およびIshidoya et al. (2013)が森林の呼吸および光合成のER観測値と森林内のO2およびCO2の収支に基づいて推定した大気-森林間フラックスのER(ER_F)は、1.1とは大きく異なる値であった。また森林がCO2を吸収する際のER_Fとして、Seibt et al. (2004)では1.1より大きい値が、 Ishidoya et al. (2013)では1.0より小さい値がそれぞれ報告されており、両者で逆の傾向の結果が得られている。そのため、大気-陸上生物圏間平均ERの検証のためには、各種森林におけるER_F値の直接観測が強く望まれる。またER_Fの直接観測が可能になれば、渦相関法により観測された大気?森林間CO2フラックスを、光合成量(GPP:Gross Primary Production)と生態系呼吸量(RE:Ecosystem Respiration)とに分離して評価することも可能になる。そのため本研究では岐阜県高山市乗鞍岳中腹の冷温帯落葉広葉樹林内観測サイト(TKYサイト;36°09’N、137°25’E、1420 m a.s.l.)において傾度法(aerodynamic method)(Yamamoto et al., 1999)による解析を適用することで、ER_F値の初めての直接観測例として2013年夏期の平均ER_F値を観測するとともに、得られた結果をGPPとREの分離評価に応用したので報告する(Ishidoya et al., in preparation)。 傾度法の適用のためには森林樹冠上の複数高度での観測が必要であるため、本研究ではTKYサイト樹冠上の高度18および27 mの2高度において、燃料電池式分析計(Goto et al., 2013)と非分散型赤外分析計とを用いてδ(O2/N2)とCO2濃度の連続観測を行なった。観測は2013年5月24-8月28日の期間に行なわれた。ER_Fは、森林内の鉛直拡散係数がO2とCO2とで等しいと仮定し、高度18と27 mのδ(O2/N2)差(△δ(O2/N2))と同CO2濃度差(△CO2)の比を用いることで計算される。ただし、δ(O2/N2)の測定精度は連続的なER_Fの変化を導出するには不十分であるため、各日の△δ(O2/N2)(△CO2)値を全て同一日に重ね合わせることで得られた観測期間平均の気候値的な△δ(O2/N2)(△CO2)日変化に基づいてER_Fを計算した。その結果、観測期間平均の日平均ER_Fとして0.79±0.07の値が得られた。この値は、森林がCO2を吸収する際にER_Fが1.0より小さい値を示すことを予測したIshidoya et al. (2013)と整合的である。得られた日平均ER_Fと、光合成のERとしてCalvin-Benson-Basshamサイクルから予測される1.00、および生態系呼吸のERとしてIshidoya et al. (2013)により報告されたTKYサイト土壌呼吸における1.11±0.01の値をそれぞれ与えることで、大気-森林間CO2フラックス観測値(Saigusa et al., 2005)に基づく生態系純一次生産(NEP:Net Ecosystem Production、NEP = GPP-RE)をGPPとREとに分離して評価した。得られたREおよびGPPは、Saigusa et al. (2005)による呼吸温度関数から推定されたREとそれに基づくGPPよりそれぞれ1.6および1.3倍大きく、チャンバーによる土壌呼吸観測値(Mo et al., 2005)から推定したREとそれに基づくGPPと整合的な値であった。今後、δ(O2/N2)による全球CO2収支解析の検証と、GPPおよびRE分離推定の高精度化のため、各種森林におけるER_F観測の展開とそのさらなる精密観測法の開発が重要な課題となる。