日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS22_1PM1] 大気化学

2014年5月1日(木) 14:15 〜 16:00 511 (5F)

コンビーナ:*竹川 暢之(東京大学先端科学技術研究センター)、澤 庸介(気象研究所地球化学研究部)、金谷 有剛(独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域)、高橋 けんし(京都大学生存圏研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:矢吹 正教(京都大学生存圏研究所)

14:45 〜 15:00

[AAS22-24] VOC/NOx/O3 反応系に関する有機硝酸生成計測法の改良

*松本 淳1 (1.早稲田大学人間科学学術院)

キーワード:窒素酸化物, 揮発性有機化合物, 対流圏オゾン, 有機硝酸, 室内実験, 気相反応

【はじめに】 有機硝酸類 ONs は、揮発性有機化合物 VOC を前駆体とする大気中での二次有機エアロゾル SOA の生成過程における中間生成物の一種に挙げられる。また、対流圏でのオゾン(O3)生成過程での過酸化ラジカル RO2 による NO 酸化において、NO2 を生成せずに ONs となる割合(分岐比)は、NO-NO2 連鎖反応における O3 生成効率に影響する。したがって、SOA や O3 に関連する大気質評価には、ONs 生成挙動の把握が重要である。すなわち、VOC を含む大気試料が酸化反応によって生成しうる ONs 量、有機硝酸生成能を新たに考える必要がある。二次生成 ONs は前駆体 VOC と同様に多種多様であるため、ONs 全成分を数え落とし無く網羅して捕捉する包括的計測法が有効である。そこで発表者は、VOC 試料の有機硝酸生成能の評価を目指して、熱分解-レーザー誘起蛍光法(TD-LIF)ONs 計を活用し、VOC 酸化反応系にて二次生成 ONs 量(dONs)を計測する研究を実施している。今回は、これまでの試作型反応容器よりも大型の反応容器を新作し、その使用条件や性能について調査した。本発表では、VOC 標準試料に NO, O3 を添加し、新型反応容器にて反応させた後のdONs を計測した室内実験の結果を紹介し、本手法の可能性を検証する。【原理・方法】 TD-LIF 法では、窒素酸化物を含む試料を加熱して生成する NO2 のうち、360 ℃前後での増分をアルキルナイトレート ANs 由来、170 ℃前後での増分をペルオキシアルキルナイトレート PANs 由来、としたうえで、ONs = ANs + PANs を算出した。今回は、ガス状と粒子状の成分を区別しない総量を計測したが、経験上、ONs はガス状成分が支配的と考えられる。実験は、VOC 標準試料、NO 標準ガス、O3 発生器からのガス、を二重管フローチューブ式のガラス製反応容器(内径 143 mm, 長さ 500 mm、実効反応体積 6.4 L、流量 0.86 SLM での反応時間 7.5 分、光照射なし)の入口側から導入し、出口側にて TD-LIF 計による ONs 計測を行なった。VOC による有機硝酸生成量dONs は、VOC 導入時と清浄空気導入時の測定値の差として算出した。基礎実験として、NO の添加流量や反応容器内の吸引流量に対するdONs 検出強度の依存を調べて、dONs 感度の向上を図った。そのうえで、イソプレンやリモネンといった VOCs 標準試料についてdONs の検量線を作成し、現時点での測定性能を評価した。【結果・考察】 ppmv レベルのイソプレン標準試料に 100 ppbv 程度の NO と O3 を添加したところ、VOC の有無に対して TD-LIF 信号の有意な変化が計測され、反応による ONs 生成の捕捉に成功した。流量条件を決めたうえで、イソプレン標準試料の濃度と dONs 量の関係を調べたところ、試作型反応容器と比較して約 3 倍の感度 S(dONs) = 0.00085 ppbv/ppbv を得た(感度S(dONs) は単位イソプレン濃度あたりの ONs 生成量)。十分な反応時間を確保した新型反応容器によって有機硝酸生成計測性能が大幅に改善した。同様に、同じ反応条件におけるリモネンの検出特性を調べたところ、S(dONs) = 0.013 ppbv/ppbv を得た。今回捕捉されたリモネンおよびイソプレンの ONs 生成量の比(約 15 倍)は、298 K におけるリモネンおよびイソプレンのオゾンとの反応速度定数の比(約 16 倍)と良く一致した。VOC とオゾンの反応が ONs 生成量を支配しうることを実験的に確認し、本手法による ONs 生成計測の妥当性を示した。ただし、ONs 生成量の議論には、オゾン反応による RO2 生成効率や、反応 NO+RO2 における NO2 と ANs への分岐比も、考慮する必要がある。発表では、本手法を活用した ONs とポテンシャルオゾン PO の同時計測に基づいた、RO2 生成効率や NO2-ONs 生成分岐比を含めた ONs 生成特性評価の試みについても紹介する。 【謝辞】 本研究は、科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究(課題番号 24651014)の助成を受けて実施された。