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[AAS22-27] VBS法を用いた有機エアロゾルモデルの開発と検証:アジア域における人為・自然起源の相互作用
キーワード:エアロゾル, 有機エアロゾル, 領域3次元モデル, 人為・自然起源相互作用, 東アジア, VBS
有機エアロゾル(OA)は大気中の微小粒子の主要な寄与を占め、直接・間接効果の両面で重要な役割を果たす。しかし、その生成過程は非常に複雑であるため、大気中でのOA濃度とその気候・健康影響の見積もりには依然として大きな不確定性がある。全球・領域モデルを用いたOAの計算が多く行われてきたが、実大気中のOA濃度やその生成量を大きく過小推定してきた。近年これまで考えられてこなかったOAの前駆気体(半揮発性の有機化合物、S/IVOC)とその酸化過程が発見され、これらを考慮した新しいOAモデルの概念が提唱された(Volatility basis set、VBS)。VBSモデルは全球・領域モデルにも取り入れ始めており、大気中の現実的なOA濃度を説明でき得る手法として注目されてきている。本研究では、この手法に基づいたOAモデルを開発し、領域3次元モデルWRF-chemに導入した。このモデルでは揮発性有機化合物(VOC)とS/IVOCの大気中での連続的な酸化過程と気相-エアロゾル相の分割を計算する。このモデルをアジア域に適用し、1)2次有機エアロゾル(SOA)の生成に対するVOC・S/IVOCの酸化過程の重要性、2)SOA生成における人為起源VOC・S/IVOCと自然起源VOC・S/IVOCの相互作用を調べた。また、3)人為的な排出源の影響を受けて生成したOA(Controllable OA)の寄与を推定した。 まず、東京周辺域(埼玉・騎西、2004年7~8月)および東アジア域の下流域(長崎・福江島、沖縄・辺戸岬、2009年3~4月)においてエアロゾル質量分析計を用いて行われたOA観測結果との比較を行った。VOC・S/IVOCの酸化過程を考慮したVBSモデルの計算は、観測されたOA・SOAの質量濃度や時間変動を概ね再現することに成功した。一方、S/IVOCおよびそれらの酸化過程を考慮しない計算(従来型のOAモデル)では観測されたOA・SOAの質量濃度を80~90%も過小推定する結果が得られた。アジア全域では、酸化過程を考慮することによってOA質量濃度が0.24μg/m3から1.28μg/m3へと大幅に増大した(2009年3~4月平均、高度約1km)。これらの結果は、これまで考慮されてこなかったOAの前駆気体や酸化機構がアジア域の現実的なOA・SOAの質量濃度や時間変動を表現する上で重要になることを示している。次に、OA生成における人為起源・自然起源発生源の相互作用を調べた。その結果、人為起源のVOC・S/IVOCの酸化過程は、人為起源VOC・S/IVOCからのOA生成だけでなく、自然起源VOC・S/IVOCからのOA生成も大幅に(約50%)増大すると見積もられた。この結果は、全球で主要な割合を占めると考えられている自然起源SOAの濃度を精度よく計算するためには、人為起源VOC・S/IVOCからの現実的なSOA生成量を(自然起源SOAの増大効果を含めて)表現できるOAモデルを用いることが重要となることを示唆している。Controllable OAの寄与は全OAの87%と見積もられ、春季アジア域においてほとんどのOAが人為的な排出源の影響を受けて(人為起源のVOC、NOx、OAの排出・酸化反応への影響を通して)生成したことを示唆している。自然起源SOAについてもその大部分(78%)がControllable OAであると見積もられた。Controllable OAはVOC・S/IVOCの酸化過程を考慮することによってその量が大幅に増大した(0.18μg/m3から1.12μg/m3へ増大)。これらの結果は、VOC・S/IVOCの酸化過程やその人為・自然起源相互作用が、OAの気候影響を精度良く推定する上で大きな役割を果たす可能性を示している。