日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS22_1PM2] 大気化学

2014年5月1日(木) 16:15 〜 18:00 511 (5F)

コンビーナ:*竹川 暢之(東京大学先端科学技術研究センター)、澤 庸介(気象研究所地球化学研究部)、金谷 有剛(独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域)、高橋 けんし(京都大学生存圏研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:竹川 暢之(東京大学先端科学技術研究センター)

16:15 〜 16:30

[AAS22-P03_PG] 富士山頂、東京神楽坂、北太平洋で採取された鉄含有粒子の性状と鉱物粒子の構造

ポスター講演3分口頭発表枠

*三木 裕介1上田 紗也子2三浦 和彦1加藤 大樹1古谷 浩志3植松 光夫3 (1.東京理科大学、2.名古屋大学、3.東京大学)

キーワード:エアロゾル, 鉄, 水溶性物質, 非水溶性物質, 長距離輸送

エアロゾル粒子は大気を介した物質輸送などを通じて、地球規模の物質循環や気候システムにおいて重要な役割を担っている。栄養塩が豊富に含まれていても生物生産の指標であるクロロフィル濃度が低い(HNLC)領域では、鉄の欠乏により植物プランクトンの生育・増殖が制限されることが知られている。こうした海域では大陸からのエアロゾル粒子の輸送・沈着が鉄を供給する重要なプロセスである。エアロゾル粒子の沈着しやすさは、粒子サイズや水溶性物質との混合状態に依存する。鉄含有粒子の性状と輸送過程での変質について調べるために、富士山頂、東京神楽坂および学術研究船白鳳丸のKH-12-1(EqPOS)のLeg2航海においてエアロゾル粒子の採取を行った。低圧カスケードインパクターに小型ポンプを付けたものを風上に向けて粒子の捕集をした。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、水透析法とエネルギー分散型X線分析器(EDX)に基づく個別粒子の分析を行った。5日間の後方流跡線、光散乱式粒子計数器(OPC)から得られたエアロゾル個数粒径分布および電子顕微鏡での形態観察・分析結果を基に、大陸からの長距離輸送イベントサンプルについて考察した。
鉄の主な供給源としては、地殻由来の鉱物や工業起源の人為起源粒子などが挙げられ、これらは水に難溶な化合物であることが多い。本研究では、水透析により水溶性物質を溶かし出し、残った非水溶性物質中の鉄の有無を調べた。いずれのサンプルでも、非水溶性物質は水溶性物質と内部混合した状態(混合粒子)で存在していたものがほとんどであった。混合粒子の水溶性物質の体積割合は、他のサンプルに比べ海洋のサンプルで高い傾向が見られたことから、海洋へと輸送される過程で水溶性物質と混合したことが示唆される。鉄含有粒子についても同様な傾向が見られた。
また、粒子の存在状態を明らかにするために、収束イオンビーム(FIB)法により鉱物粒子の構造を決定した。Tiプレート上に採取した5 μm以上の粒子をFIB-SIMを用いて200 nm程度に薄片化し、粒子の断面に対して制限視野電子線回折を行った。回折像とEDXの結果から粒子構造を決定した。粒子表面かつCaCO3に接する部分で、CaCl2の存在が確認されたことから、CO32-がCl-に置換されてCaCl2が生成した(CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + CO2 + H2O)可能性が示唆された。粒子内部にはわずかながら鉄が含まれていた。難溶性のCaCO3から易溶性のCaCl2に変わることで、雲核・氷晶核能力や粒子内部に存在する鉄の溶けだしやすさが変わる可能性がある。