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[AAS23-01] GNSS視線遅延を用いた積乱雲監視のための数kmスケールのPWV分布解析
キーワード:メソ気象, 水蒸気, 全球航法支援システム
全球衛星測位システム(Global Navigation Satellite System)を用いた数kmスケールの可降水量(Precipitable Water Vapor: PWV)分布を解析する手法を提案する。この手法は観測された電波の位相から、GNSS解析によって得られた天頂遅延量と、天頂方向に投影した個々の衛星方向の視線遅延量との差を利用する。水蒸気勾配が高度とともに指数関数的に減少すると仮定すると、両者の差を用いて観測点から視線の方向のPWV勾配を推定できる。Shoji(2013)では水蒸気の非一様性を示すWater Vapor Inhomogeneity (WVI)指標を提案した。これは天頂方向に投影したSPDのばらつき(標準偏差)として定義される。WVI指数では電波の方向に関する情報は使われない。ここで紹介するSPD方向のPWV勾配は、視線のばらつきと方向の両方を利用する。 この手法を用いて、2012年5月6日に茨城県つくば市に大きな被害をもたらした竜巻の親雲について、PWVの分布を解析した。この親雲は、気象研究所の二重偏波レーダーの観測から、特に発達した数kmスケールの積乱雲の存在が、竜巻発生の1時間程度前に確認されている(Yamauchi et al. 2013)。益子(2012)による高解像度非静力学モデル(NHM)実験では、親雲の周辺5km程度の領域に18mm/kmにも達する強いPWV勾配が再現されていた。平均17km間隔の国土地理院GNSS観測網から再現されたPWV分布では、そのような強い勾配は表現されない。今回提案する手法では、親雲周辺でのPWV勾配の強化が表現されていた。 しかし、解析されたPWV勾配は最大でも8mm/km程度で、NHMモデルによる結果の約1/2程度にとどまった。この理由は二つ考えられる。ひとつは観測点密度の粗さである。NHMシミュレーションで再現されたPWV勾配の強い領域は、数km程度の領域であり、平均17km間隔の観測点では、補足に限界がある。もう一つはSPDの数である。当研究ではGPS衛星のみを用いている。GPS衛星は2014年1月現在30機が運用中で,日本では観測可能な衛星数は6-12機と時間によって変化する.上記の提案指標の精度は,SPDの数や配置に依存するため,なるべく観測点上空で偏りのない,数多くの衛星を利用する必要がある.国土地理院ではGEONETに,複数のGNSS観測が可能な改良を行い,2013年5月10日よりGPSに加え,準天頂衛星(日本)とGlonass(ロシア)の観測データ提供を開始した.発表ではGPS以外の衛星の利用可能性についても議論する。