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[AAS23-15] 2012年5月6日につくば市付近で発生した竜巻に関する気象研究所ドップラーレーダーデータの同化実験
キーワード:データ同化, 竜巻, ドップラーレーダー
2012年5月6日の午後12時30分(JST)頃、つくば市付近で藤田スケールF3と推定される国内最大級の竜巻が発生し、大きな被害が生じた。この竜巻は西からやってきた降水帯の南端で発生しており、ほぼ同時刻にこの竜巻の北側でさらに2つの竜巻が発生していた。気象研究所のドップラーレーダーはこの竜巻から約15kmの近距離にあり、竜巻を発生させた降水系だけでなく竜巻に伴う下層渦もとらえることに成功しているが、このレーダーによる高密度観測データを同化した実験はこれまでに行われていない。そこで本研究では、局所アンサンブル変換カルマンフィルターをネストしたシステム(LETKFネストシステム)を用い、このレーダーで観測されたドップラー風の同化が再現される渦に与える影響を調べた。本実験では、アンサンブルメンバー数を12とし、親LETKF(水平格子間隔15km)では1時間間隔の観測データを5月3日09JSTから6時間サイクルで、子LETKF(水平格子間隔1.875km)では10分間隔の観測データを6日03JSTから1時間サイクルで同化した。観測データは気象庁の現業データ同化システムで使用されているもの(地上・海上で観測された気圧、ラジオゾンデで観測された風・気温・湿度、ウインドプロファイラで観測された風、航空機で観測された風・気温)を用いたが、子LETKFではこれに加えて気象研究所のレーダーのドップラー風も同化した(以後この実験をVRと呼ぶ)。比較のためにドップラー風を同化しない実験(CTL)も併せて行い、CTLとVRの両方の実験について、子LETKFで6日10JSTに解析された13メンバーの値(12メンバーとその平均である解析値)を初期値として水平格子間隔350mにダウンスケールしたアンサンブル実験を行った。6日10JSTの解析値を初期値にしたダウンスケール実験では、現実に発生した渦を3つとも再現することはCTL、VR共にできなかったが、南北に並んだ2つの渦は再現された。南側の渦の位置に着目すると、CTLとVRで大きな違いはないものの、VRの方が2km程度南を通っており、現実の位置に近づいていた。また、この渦の下層の最大風速はVRの方がCTLより強かった。これらに関係する要因として、ここでは「ストームに相対的なヘリシティー(SReH)」と「下層の水蒸気」に注目し、6日10JSTにおけるこれらの量について、再現された南側の渦の下層の最大風速(Vmax)や、その渦が東経140度を通る時の緯度(L140)との相関をVRの13メンバーで計算した。すると、SReHは降水域とその南において、下層の水蒸気は降水域南と渦発生域南において、Vmaxと正の相関があった。このことは、Vmaxの大きさに初期値のSReHと下層の水蒸気量が影響を及ぼしていることを示している。VRをCTLと比較すると、6日10JSTにおける降水域のSReHはCTLより小さく、一方で渦発生域の下層の水蒸気はCTLより増大していた。VRではCTLに比べ、レーダー付近の晴天エコー内のドップラー風の同化によって、降水域に供給される下層の水蒸気が増大する方向に修正されており、この効果がSReHの減少よりも大きく影響を及ぼしたために渦が強くなったのだと考えられる。一方、L140については、降水域南の下層の水蒸気と負の相関があった。このことは、降水域南で下層の水蒸気が多いほど降水域が南に延びて渦がより南で発生するということを示唆している。本実験の結果、竜巻に伴う渦の強度や位置が、降水域とその南の風速や、降水域南と渦発生域南の下層の水蒸気と相関を持つことが分かった。したがって、数値実験によってこの竜巻に伴う渦の再現性を向上させるためには、データ同化によりこれらの量を適切に修正することが必要と考えられる。謝辞:気象研究所のレーダーデータは、気象研究所気象衛星・観測システム研究部第二研究室からご提供いただきました。また本研究の一部は「次世代スーパーコンピュータ戦略プログラム」戦略分野3「防災・減災に資する地球変動予測」に関する研究、および文部科学省・社会システム改革と研究開発の一体的推進「気候変動に伴う極端気象に強い都市創り」より支援を受けました。ここに記して感謝いたします。