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[ACC31-03] 北極圏スヴァールバル諸島の氷河表面の化学主成分の特徴
キーワード:スヴァールバル諸島, 氷河, 化学成分, 海塩
氷河や積雪などの雪氷中には,微量であるが様々な物質が含まれている.これらの化学物質は様々な場所から大気や降水,降雪を介して供給されている.氷河表面や融解水の化学成分は,その地域の地理的特性や大気・物質循環系,雪氷生物の生態を理解する上で重要である.そこで,本研究では,北極圏のスヴァールバル諸島北西部の3つの氷河(アウストラブレッガー氷河,ミドトレラーヴェン氷河,ペダーセン氷河)を対象に,融解期の氷河表面,融解水,新雪に含まれる化学成分を分析し,その供給源,地域特性を明らかにすることを目的とした.主要化学成分濃度を分析した結果,全体的に化学成分濃度は低かったが,採取した場所によって濃度や成分構成が異なった.分析を行った全試料の化学成分の相関を調べたところ,互いに有意な相関を示す成分が存在し,成分は大きく3つのグループに分類することができた.強い相関のあったCl-,SO42-,Na+をグループA,Mg2+,Ca2+をグループB,その他の相関のないNO3-,NH4+,K+をグループCとした.それぞれのグループは異なる供給源に由来するものと考えられ,その化学成分からグループAは海塩由来,グループBは陸上起源のダストに由来する成分であると考えられる.分析を行った各地点の化学成分の構成は,海塩由来のグループAの成分の割合が高いタイプ1と,グループAの成分と陸上ダスト由来のグループBの化学成分が同じ割合で含まれるタイプ2の2種類に分類できた.濃度を比較すると特にグループA成分が両タイプで差が大きいことから,海塩成分の影響の有無がこのようなタイプの違いの原因となっていると考えられる.各採取地点のタイプは,海からの距離とは関係がないことから,供給過程と溶脱過程の両方がタイプの決定に関わっているものと考えられる.氷河表面氷と氷河表面を流れる融解水の化学成分を比較した結果,成分構成比にはどのサイトでも大きな違いがないが,K+とSO42-には特定の場所で氷河氷と融解水の間で濃度の違いがあることが明らかになった.これらの違いは,局地的な陸上起源のダストの供給量の違いや,成分ごとの溶脱過程の違いが関わっていると考えられる.本研究の分析結果を,他の地域と比較した結果,スヴァールバル諸島の氷河の積雪やアイスコアでは海塩成分が支配的であり,タイプ1の成分構成に一致した.グリーンランドの氷河との比較からは,海に近いカナック氷河の成分はタイプ1に概ね一致し,内陸に位置するラッセル氷河ではタイプ2に一致した.このことは,北極圏の氷河では,積雪も裸氷域も含め,海塩由来成分の供給と溶脱過程が,化学成分を決定していることを示している.