日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC31_29AM2] 雪氷学

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 312 (3F)

コンビーナ:*鈴木 啓助(信州大学理学部物質循環学科)、兒玉 裕二(国立極地研究所)、座長:兒玉 裕二(国立極地研究所)

11:15 〜 11:30

[ACC31-09] 重水を含む水から純水の分離

*対馬 勝年1松山 政夫1上石 勲2 (1.富山大学、2.防災科学研究所)

キーワード:放射性汚染水, 純水分離, トリチウム水分離, 重水, 氷り結晶法

福島第一原子力発電所事故で発生した40万㌧を超える放射性汚染水の減容化が課題となっている。昨年度は氷結晶法による氷分離により、水以外の放射性物質を1回の凍結当たり最大1/1000程度まで除染できることを示した。氷結晶法は汚染物を母液側に閉じこめ、純水を氷の形で分離して減容化を目指すものであった。氷結晶法はトリチウム以外の全ての放射性物質(62種類)を吸着処理するALPSとは手法が異なるものであった。ALPSは除染能力は高いが新たな放射性汚染物を多量に発生する欠陥がある。これに対し、氷結晶法は新たな放射性汚染物を発生させずに減容化できるのが長所である。最新のセシウム、放射性セシウムを含む汚染水の試験から氷結晶法が10ppmから10pptの広範囲の汚染濃度に適用できることも示された。極めて低濃度の放射性汚染水に対しては汚染物を母液に閉じこめ純水を分離する方法は理想的な減容化法と考えられる。 その後、ALPSが処理できず、また氷結晶法も処理できないトリチウム水(HTO)の分離課題が一般にも知られるようになった。トリチウムはβ崩壊する放射性元素であり、食品包装用ラップ一枚で防止できる弱い放射能であるが、飲料や食品、呼気とともに体内に入ると体内被曝の恐れがある。このトリチウム水は水の同位体であるから化学的手法で水からトリチウム水を分離するのが難しく、未解決の課題として残され、その結果、放射性汚染水は減ることなく増え続ける現実がある。 ところで水とトリチウム水(あるいは重水)など水の同位体は物理的性質である氷点、融解熱、などに顕著な違いがある。T2Oの氷点は+4.49℃、HTOの氷点は+2.25℃、HDOの氷点は+1.91℃でH2Oの氷点0.00℃とは著しく異なる。例えばトリチウム汚染水の半分を凍らせ、その氷をカンナで削って細かい粒子状に変えて母液に戻しシャーベット状すると氷と汚染水の接触面積は桁違いに増大する(バッチ法)。各氷界面で水分子の出入りがあり水素結合の強いトリチウム水分子は雪粒に凍り付きやすいと考えられ、水側のトリチウム濃度が減少していくと期待される。加えて、大小の雪粒子間に粗大化が進行するから表面に凍り付いたHTO分子は次々に凍り付いていくH2O分子のため氷体内部に移動していく。ただし融解する粒子からはHTO分子が水側に付加される。この分離法の欠点は水中の水分子の拡散係数が小さいうえ濃度勾配がないから分子を氷界面へ移動させる駆動力がないことである。分子自身の熱運動(氷の構造から推測すると水の中の空孔や格子間分子への移動)を通して偶然氷界面に到達したHTO分子が氷に組み込まれる可能性を持つにすぎない。したがって分離を高めるには①液体をできるだけ狭い隙間において氷粒子に接触させること、②水そのもに攪拌や流れ等の動きを与えることの2点を考えた。方法としてはバッチbatch法とカラムcolumn法の2つを採用した。カラム法は鉛直の長い筒に粉状にした汚染雪を詰め、筒上端から汚染水を注ぐもので下端から流出する水に含まれるトリチウム水の濃度が低下していると期待される。水流量が小さい場合、雪筒内は被膜流下となり雪粒表面を薄く覆いながら流下する。この場合、水膜内のトリチウム水分子が氷界面に接触する機会は非常に高く、高い割合での分離が期待される。欠点は被膜流下の速さは毎分数cm程度とされているため処理能力が小さい点にある。 測定の結果はHDO濃度が半減する程度の分離に留まっており、分離割合の画期的向上が課題である。