日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC31_29AM2] 雪氷学

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 312 (3F)

コンビーナ:*鈴木 啓助(信州大学理学部物質循環学科)、兒玉 裕二(国立極地研究所)、座長:兒玉 裕二(国立極地研究所)

11:45 〜 12:00

[ACC31-11] ユーコン周辺におけるサージ型氷河の季節変化:静穏期の冬期加速とそのメカニズムについて

*阿部 隆博1古屋 正人1 (1.北海道大学大学院理学院)

キーワード:合成開口レーダー, オフセットトラッキング, サージ型氷河, アラスカ/ユーコン, 冬期加速

氷河・氷床の短期的な流動速度の変化は, 氷河底面の水が大きな役割を担っている (e.g., Zwally et al., 2002; Sundal et al., 2011). 流動速度を高頻度に観測することは, 氷体内の水の時空間分布を解明するのに有効な手段である.近年の衛星リモートセンシングデータによって, 南極やグリーンランド氷床, そして山岳氷河の流動速度の全容が明らかになってきた(e.g., Rignot et al., 2011; Yasuda and Furuya, 2013). アラスカ/ユーコン地域においては, 昨年初めて地域全体の流動速度マップが報告されたが (Burgess et al., 2013)、その時空間発展は未だ明らかになっていない. また, この地域においては氷河サージ(季節変動と異なり、数倍~数百倍の速度で流動する現象)を起こす氷河が多数存在し, その多くは冬に発生することが知られているが, そのメカニズムは明らかになっていない. また, この地域の氷河は将来の海水準変動に大きく寄与し、氷河浸食と地形進化の相互作用も示唆されている.JAXAが2006年に打ち上げたLバンド衛星搭載型合成開口レーダーALOS/PALSARのデータにオフセットトラッキング法を適用し, 2006年から2011年までの流動速度の時空間変化を調べた. その結果, 多くのサージ型氷河において, 静穏期にも関わらず上流において顕著な冬期の加速が見られた. さらに, 一般的な季節変化として知られる夏期の加速は, 下流から上流へ伝搬するのに対し, この冬期の加速は上流から下流へ伝搬していた. 冬期に氷河表面に多量の融解水が存在し, 氷河内へ浸透することは考えにくい. そこで我々は, これまでの様々な先行研究を元に, 氷河内に貯まった融解水が底面滑りを促進し, 冬期の加速を起こしているという仮説 (Lingle and Fatland, 2003)をこのデータが支持していると考えた. 我々の発見は, 今後氷河の流動モデルや氷河浸食の推定等に新たな知見を与えるだろう.この研究のいくつかの結果とその議論については, 昨年の連合大会で報告した (阿部・古屋, 2013). 我々は, その後解析範囲を拡大し, この冬期の加速が普遍であるかを調べている. 当日は, 新たな解析結果とそれが示唆する冬期加速のメカニズムについて発表する予定である.