日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC31_29PO1] 雪氷学

2014年4月29日(火) 14:00 〜 15:15 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*鈴木 啓助(信州大学理学部物質循環学科)、兒玉 裕二(国立極地研究所)

14:00 〜 15:15

[ACC31-P05] 天山山脈とラダーク山脈の氷河湖と氷河湖決壊洪水

*奈良間 千之1風晴 彩雅1山本 美菜子1浮田 甚郎1池田 菜穂2田殿 武雄3 (1.新潟大学理学部自然環境科学科、2.東北大学災害科学国際研究所、3.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:氷河湖, 氷河湖決壊洪水, 小規模氷河湖分布地域, 天山山脈, ラダーク山脈

調査地域である中央アジアの天山山脈やインド北西部のラダーク山脈(インド・ヒマラヤ西部)には,小規模な氷河湖が多数分布する.天山山脈では,1963年に多くの犠牲者がでた氷河湖決壊洪水(GLOF)をはじめ,いくつかの氷河湖決壊洪水(GLOF)が1950~1970年代に起きている.最近では1998~2012年に再び犠牲者をともなうGLOFが1998年7月にギッサール・アライ地域(5万m3,犠牲者多数),2002年8月にパミール(10万m3,犠牲者24人),2008年に天山山脈北部地域(45万m3,犠牲者3人)の3回生じている.一方,ブータン・ヒマラヤにおいては,2000~2010年に急速に拡大した氷河湖は全体のわずか1~3%であった.東ヒマラヤでは1994年以降犠牲者をともなうGLOFは生じておらず,氷河湖の脅威は以前よりも減少している.これまでの我々の調査結果によると,天山山脈北部地域に分布する約800の氷河湖のうちの多くが1980年代以降に出現した新しい氷河湖であり,この1980年代以降に出現・発達した次世代の氷河湖が2000年以降再びGLOFを起こしはじめている.もう一つの対象地域であるインド北西部のラダーク山脈(インド・ヒマラヤ西部)では,天山山脈と同様に小規模な氷河湖が多数分布する.2010年,2011年,2012年と立て続けにGLOFが生じ,その特徴は両地域で多くの類似点を持つ.このような状況を鑑み,本研究では,小規模氷河湖分布地域である二つの山岳地域を対象に,氷河湖の現状分析,過去の氷河湖決壊洪水の被害状況とその被害予測をおこない,氷河災害軽減に向けての対策を提案することを目的としている.
氷河災害の軽減に向けて,本発表では以下の2点について報告する.(1)発生誘因である小規模氷河湖の基礎的な情報,(2)過去の洪水履歴からの災害実績図である.天山山脈とインド・ヒマラヤ西部のラダーク山脈では,1年~数か月の短期間で出現・決壊する短命氷河湖が複数確認されている.天山山脈のテスケイ山脈では,2008年7月にわずか2か月半で氷河湖が出現・決壊して,45万m3の水を流出し,3人の犠牲者をだした短命氷河湖のGLOFが生じた.2012年7月には,同地域のキルギス山脈で1年前に出現した氷河湖(6万m3)が決壊し,上流の村々の住民は突然の洪水に混乱した.インド北西部のラダーク山脈では2011年に出現した氷河湖が2012年7月に決壊し2つの橋を流出した.この短命氷河湖の現状を把握するため,空中写真,Corona,Landsat TM/ETM+など複数の衛星データを用いて,氷河湖の面積変動の追跡調査をおこなった.ALOS AVNIR-2/PRISM画像から,現在のキルギス山脈において229の氷河湖(0.001㎞2以上)が確認された.これら氷河湖の面積変動の傾向から,氷河湖は短命・繰り返し型と変動型(拡大・縮小)の2つのタイプに分類でき,短命・繰り返し型の氷河湖タイプが3割ほどを占めていることがわかった.さらに,過去の氷河湖決壊洪水の記録から,短命氷河湖タイプの出水が多いことが明らかになった.詳細は学会において報告する.