日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG06_29PO1] Satellite Earth Environment Observation

2014年4月29日(火) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*沖 理子(宇宙航空研究開発機構)、本多 嘉明(千葉大学 環境リモートセンシング研究センター)、奈佐原 顕郎(筑波大学生命環境系)、中島 孝(東海大学情報デザイン工学部情報システム学科)、沖 大幹(東京大学生産技術研究所)、横田 達也(国立環境研究所 地球環境研究センター)、高薮 縁(東京大学大気海洋研究所)、村上 浩(宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)、岡本 創(九州大学 応用力学研究所)

18:15 〜 19:30

[ACG06-P01] ALOS-AVNIR2・PALSARを用いた湿潤年における東シベリア北方林内の永久凍土融解・湛水被害域の抽出

*飯島 慈裕1阿部 このみ2伊勢 紀2増澤 直2 (1.独立行政法人海洋研究開発機構、2.株式会社 地域環境計画)

キーワード:ALOS, 永久凍土, 気候湿潤化, 北方林, 荒廃, 東シベリア

永久凍土が広く分布する東シベリアでは、2000年代後半に、冬季積雪と夏季降雨が共に大きく増加した気候が過剰に湿潤化した状態が複数年継続した。活動層(地表面直下の凍結融解土壌層)の土壌水分量が大幅に増加したことで、土壌の熱的性質が変化した。その結果、永久凍土表層の融解が進み、活動層が深くなると共に、この土壌の過剰な湿潤化によって、谷や平坦地、アラス(凍土融解による陥没地形)周辺といった水が集まりやすい地形では、長期的に湛水状態が継続する事態となった。さらに、湛水した地表面上では、北方林(カラマツ(Larix cajanderi)を優占種とする)の生育環境が悪化し、森林の枯死・荒廃が数年の時間差をもって進行した。
これら一連の現象の連鎖は、気候湿潤化の広がりに伴って東シベリアに広域的に生じていると考えられる。すなわち、過湿な地表面と森林が枯死・荒廃した地域を特定することによって、気候湿潤化による永久凍土荒廃現象の空間的広がりが示されることになる。この際、従来の森林リモートセンシングで使われる可視・近赤外の情報に加えて、水分状態を検出できるマイクロ波衛星の情報を組み合わせることで、水環境変化を伴う北方林内の永久凍土環境変化の検出が有効であると考えた。以上から、本研究では、ALOS-AVNIR2・PALSARを用いた衛星データ解析と現地調査結果に基づき、ヤクーツク近郊での湿潤化による水域の拡大状況と、それによる永久凍土・活動層変化を伴う北方林変化域の抽出を試みた。
本研究では、レナ川中流域で活動層内土壌水分の過剰な湿潤化が進行した2006~2009年の夏季のALOS- PALSARおよびAVNIR2画像を利用した。研究対象地域は、地上検証データが得られるレナ川左岸のスパスカヤパッド地域と、右岸のユケチ地域である。各対象地域として、現地観測点を含む10x10kmの領域を設定した。PALSAR画像データは、ジオコーディングとノイズ軽減の平滑化処理を行った後、PALSARのマイクロ波後方散乱係数から、2007年時点の値と2009年と2007年との差分を組み合わせた閾値として段階的な区分をすることで、通常の森林と、過湿で林床面まで湛水した森林の違いの抽出を試みた。また、同期間のAVNIR2画像から、土地被覆状態として、草原と北方林、ならびに枯死・荒廃が進行した北方林の教師付分類を行い、同様に複数年度の分類図から、北方林が変化した領域を抽出した。
レナ川左岸スパスカヤパッド地域は、地下氷が少ない砂質ロームからなる河岸段丘上に北方林が広がっており、永久凍土融解に伴う陥没地形であるアラス湖沼は少ない。この地域のPALSAR分類図では、段丘を刻む谷筋や平坦面に沿って北方林内の湛水域が拡大し、それに対応してAVNIR2分類図からは筋状に森林の変化域が抽出された。これは、左岸では谷や地形的に平坦になった地域の土壌水分飽和度が高く、カラマツが選択的に枯死していた現地観測結果とよく一致する。
一方、レナ川右岸ユケチ地域は、凍土氷を多く含む平地が広がり、アラス湖沼の密度が非常に高い。そこでは、同期間にアラス湖沼の面積が拡大し、湖沼の周囲を囲むように、森林内の湛水域が広がる様子が抽出された。右岸では閉鎖水域のアラス湖沼に多くの融雪水と降水が流入し、水域面積が拡大すると共に湖水があふれる縁辺部では活動層が湛水状態となってカラマツが倒伏、枯死しており、この解析結果もこれらの現地の観察状況とよく一致する。
以上から、ALOS-AVNIR2とPALSARデータの複合に基づく森林内湛水域と森林変化域を抽出し複合させる手法によって、湿潤化が永久凍土、森林荒廃をもたらす一連の現象を広域的に捉えることができ、地形や凍土状態の異なる地域で特徴的な荒廃状況を時系列的に示す可能性が確認された。凍土の性質が異なる左岸・右岸ともに湛水領域と森林枯死域が短期間の気候湿潤化で大きく広がっており、森林変化による熱・水・炭素循環における影響は無視できないと考えられる。今後は更なる現地検証と、広域への適用を進める方針である。