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[ACG33-01] 長野市南部,後期更新世高野層の珪藻化石群集の解析と比較
長野市南部の丘陵に分布する高野層は,最終間氷期から最終氷期までをカバーする更新世後期の湖成堆積物である(木村,1987).また,均質な泥質堆積物を主体としている点で,連続的な古気候記録の復元に有利である(田原ほか,2006).2004年6月に長野市信更長高野(標高730 m,N 36°32′55″,E138°2′7″)で学術掘削がおこなわれ,深度53.88 mまでのコア試料(TKN-2004)が採取され,指標テフラを用いた年代モデルの作成や有機炭素量などの各種の分析が行われた(田原ほか,2006)そのTKN-2004コアを用いて,約50 cmの間隔での深度3223 cmから5271 cmまでを永安が分析した.それに,大谷(2010MS)がコア深度274 cmから4924 cmまでを50 cm間隔で分析した結果を加えて,TKN-2004コア全体の珪藻化石群集変動を再検討した.このコア試料は17万年前から4万年前までに相当する. 170 kaから140 kaまではAchnanthes spp.やStaurosira spp.といった付着性の珪藻が優占し,殻数は1.0×108 valves/g未満であり他の年代と比べて珪藻含有数は非常に少ない.140 kaから40 kaにかけては浮遊性珪藻が優占するが,その優占種はCyclotella radiosa,Aulacoseira ambigua,Cyclotella stelligera,Aulacoseira alpigenaで入れ替わる.その内,140 kaから130 kaではC. radiosaが優占し,殻数は1.6~6.9×108 valves/gで増減する.130 kaから115 kaではAul. ambiguaが優占し,殻数は10×108 valves/g以上であり珪藻が多産する.115 kaから100 kaではC. stelligeraが優占し,殻数は0.1~38.2×108 valves/gの範囲で大きく変動しており,110 ka付近で38.2×108 valves/gのピークがある.100 kaから70 kaではC. radiosaが優占し,殻数は3.2~56×108 valves/gの範囲で変動しており80 ka付近に56×108 valves/gのピークがある.70 kaから40 kaではC. radiosaとAul. alpigenaが優占し殻数は0.9~20×108 valves/gの範囲で変動する. TKN-2004コアの結果を琵琶湖堆積物コアBIW08-Bの珪藻分析結果と比較すると,170 kaから140 kaでは,殻数や種構成変動に明瞭な一致は見られない.これはTKN-2004下部の珪藻が狭い水域を反映しているためである.一方,140 kaから40 kaでは殻数変動は大局的に一致する.また,TKN-2004の珪藻群集は100 kaと70 kaにて優占種が入れ替わるが,同じタイミングでBIW08-Bコアの優占種も入れ替わる.異なる湖間において優占種の入れ替わる時期が一致することは,優占種の変遷が湖周辺の環境変遷といった局所的な変動だけではなく日本における中緯度地域の環境変遷を反映している可能性がある.