日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG34_1PM1] 統合的な陸域生態系-水文-大気プロセス研究

2014年5月1日(木) 14:15 〜 16:00 213 (2F)

コンビーナ:*佐藤 永(名古屋大学大学院 環境学研究科)、伊勢 武史(兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科)、熊谷 朝臣(名古屋大学地球水循環研究センター)、座長:佐藤 永(名古屋大学大学院 環境学研究科)

15:45 〜 16:00

[ACG34-05] 気孔コンダクタンスモデルの違いが、21世紀の変動気候条件の元における水・炭素収支の予測に与える影響

*佐藤 永1熊谷 朝臣2Katul Gabriel3 (1.海洋研究開発機構 地球環境変動領域、2.名古屋大学 地球水循環研究センター、3.デューク大学)

キーワード:気孔コンダクタンス, 水循環, 炭素循環, 動的全球植生モデル, 地球温暖化, アフリカ

気孔コンダクタンスは、水蒸気飽差(VPD; water vapor pressure deficit)、大気中CO2濃度、光量、葉の水ポテンシャルといった環境要因によって制御されている。このような気孔コンダクタンスの挙動を記述するために、様々な経験的・半経験的なモデルが構築されてきた。これら気孔コンダクタンスモデルが、21世紀中に生じうると考えられる気候条件(高CO2・高気温・高VPD)の下においても的確に挙動するか否かは、水循環や気候の予測において重要な問題である。なぜならば蒸散は、全球の陸面から大気に戻る水の8割から9割を占めていると推定されており、また地表面に吸収される放射エネルギーの約半分を消費していると推定されているからである(Jasechko et al. 2013)。Kumagai et al. (2004)は、21世紀中に予測される気候変動が、ボルネオ島の熱帯林地域における水・炭素循環に与えうる影響を予測した。この予測は、2種類の気孔コンダクタンスモデルの元で行われたが、いずれのモデルも現在の気候条件下における出力には大きな差は生じなかったものの、予測される21世紀末の気候条件の下においては顕著な差を示した。そして、その差は、気孔コンダクタンスを、湿度の関数とするかVPDの関数にするかの違いが生じさせたことを示した。なぜならば、気候温暖化はVPDを上昇させるものの、湿度には大きく影響を与えないという傾向が予測されているためである。しかし、このようなモデル間の挙動の差が、より広い地域の水・炭素循環に与える効果については、未だ検討が行われていない。他方で、従来の経験的・半経験的な手法に代わり、気孔開閉の制御が経済性合理性を有している(気孔から失われる水の量に対して光合成速度を最大にするという)と仮定する進化的手法による気孔コンダクタンスモデルの発展が近年著しい(Katul et al. 2010)。そして、この手法による気孔コンダクタンスモデルは、予測される高CO2・高気温・高PDといった様々な環境条件に対して、定量的に適切な応答をすることが示されている。本講演では、乾燥度が植生の分布を強く制御しているアフリカ大陸を対象に、気孔コンダクタンスの定式化の方法が、21世紀に予測されている気候変化の元で植生の分布や機能に与える効果を検討する。この検討には、動的全球植生モデルSEIB-DGVMを利用する。過去の開発と研究において、SEIB-DGVMはアフリカ大陸の乾燥度に応じた植生の分布や機能を的確に出力させることが検証されている(Sato et al. 2012)。・引用文献Jasechko S, Sharp ZD, Gibson JJ, Birks SJ, Yi Y & Fawcett PJ (2013) Terrestrial water fluxes dominated by transpiration. Nature 496.Katul G, Manzoni S, Palmroth S et al. (2010) A Stomatal Optimization Theory to Describe the Effects of Atmospheric CO2 on Leaf Photosynthesis and Transpiration. Annuals of Botany 105: 431-442.Kumagai, T., Katul, G. G., Porporato, A., Saitoh, T. M., Ohashi, M., Ichie, T. and Suzuki, M. (2004) Carbon and water cycling in a Bornean tropical rainforest under current and future climate scenarios. Advances in Water Resources, 27(12), P1135-1150.Sato H & Ise T (2012) Effect of plant dynamic processes on African vegetation responses to climate change: Analysis using the spatially explicit individual-based dynamic global vegetation model (SEIB-DGVM). Journal of Geophysical Research-Biogeosciences 117.