日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG36_30AM2] 北極域の科学

2014年4月30日(水) 11:00 〜 12:45 311 (3F)

コンビーナ:*齊藤 誠一(北海道大学大学院水産科学研究院)、猪上 淳(国立極地研究所)、原田 尚美((独)海洋研究開発機構)、鈴木 力英(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)、座長:原田 尚美((独)海洋研究開発機構)

11:00 〜 11:15

[ACG36-22] グリーンランドの加速的・減速的な氷厚変動:ICESat衛星(2003-2009)による観測

*松尾 功二1福田 洋一1鈴木 和良2 (1.京都大学 理学研究科、2.海洋開発研究機構)

キーワード:グリーンランド, 氷厚変動, 気候変動, 宇宙測地学, ICESat, GRACE

2003年1月にNASAが打ち上げた衛星高度計ICESat(Ice, Cloud, Elevation, Satellite)は、レーザー測距儀を搭載しており、地表高度の変化を数cmの精度で計測する。ICESatは2003年9月から2009年10月の期間、冬(2-3月)、夏(5-6月)、秋(9-10月)の30日間ごとに1年間で計90日間のキャンペーン観測を行ってきた。空間分解能は、グリーンランドでは平均20kmである。本研究では、ICESat衛星の表面高度データから、グリーンランドの加速的・減速的な氷消失のシグナルを捉える。衛星航路に沿って700m間隔で、衛星の繰り返し軌道のズレによって生じる地形の寄与をPlane fitting法(e.g. Zwally et al., 2011)で補正し、表面高度の時系列を1次+2次関数で最小2乗近似する。また、レーザーパルスの大気遅延と地球の粘弾性変形(固体潮汐、極潮汐、海洋潮汐荷重、後氷期回復)の影響は、各種モデルによって補正を行う。このようにして得られた表面高度の1次変化が氷厚の線形的な変動であり、2次変化が氷厚の加速的・減速的な変動である。得られた1次変化は、グリーンランドの南東部と西部で顕著な氷厚の減少を示す。その速度は年間1.5-2mに及ぶ。内陸部は僅かに氷厚の増加(年間0.3m)が見られた。いずれも近年の温暖化の影響を反映している。すなわち、沿岸部では昇温による融解・消耗が、内陸部は昇温による降雪量の増加が起きている(Matsuo et al., 2013)。表層の積雪(フィルン)密度を、減少域で700kg/m3、増加域で300kg/m3と想定すると、2003-2009年の平均的な氷床質量変化率として約-200 Gt/yrが得られた。これは約0.55mm/yrの海面上昇に寄与していることに相当する。このような結果は、重力衛星GRACEの結果とも調和的であった。続いて、2次変化に着目する。グリーンランド西部では、顕著な負の2次変化が確認された。これはつまり、西部氷床が加速的に消失していることを意味する。その傾向は、特に主要な溢流氷河の1つであるJakobshavn氷河とQaanaaq周辺域で顕著である。一方、南東部では、同じく主要な溢流氷河であるHelheim氷河とKangerdlugssuag氷河で負の2次変化を示し、その他の沿岸域は正の2次変化を示した。つまり南東部は、溢流氷河域では氷消失が加速しているが、その他沿岸域では氷消失が減速していることを意味する。このように、氷床質量収支の加速的・減速的な変動パターンが、人工衛星から詳細に検出されたことは大変興味深い。重力衛星GRACEから導かれる2次変化を見てみると、空間分解能は約300kmと荒いが、西部で負の変化(加速的消失)、南東部で正の変化(減速的消失)を示しており、ICESatの結果と調和的であった。グリーンランド西部の加速的な氷消失は近年の温暖化を反映したものであり、Qaanaaqにおける現地観測からも、2000年代後半からカービング氷河の顕著な消耗が確認されている(杉山ほか, 2014)。南東部の沿岸域で見られる氷消失の減速は、北極振動による降雪量の増加を反映したものと考えられる。2007年と2008年の冬期は比較的強い正のフェーズの北極振動が発生した年であり、例年よりも多い降雪がもたらされている(Matsuo and Heki, 2012)。このような降雪量異常が、一時的に氷消失を抑えたものと推測される。事実、GRACE重力観測は、グリーンランド南東部で、2007-2008年は氷消失の減速、2010-2013年は加速を示す。すなわち、南東部は西部と比べ、数年スケールの年々変動が顕著であることが分かる。