14:15 〜 14:30
[ACG36-P02_PG] シベリア北東部タイガ・ツンドラ境界域における熱・炭素収支に対する気象条件の影響
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:タイガ・ツンドラ境界域, シベリア, 熱・炭素収支
1.はじめに
北極域は近年の地球温暖化による全球平均気温の上昇の約2倍の温度上昇が起きている.今後、温度上昇に伴う環境変化が予想される.タイガ域(e.g., Ohta et al., 2008,AFM; Miyazaki et al., 2014, Polar Sci.)やツンドラ域では (e.g., van der Molen et al., 2007, Biogeoscience:以下、VDM07; Parmentier et al., 2011, JGR)、研究例が多数あるが、タイガ・ツンドラ境界域では熱・炭素収支観測研究は殆ど行われていない。
2013年6月から北極域シベリア北東部のロシア連邦サハ共和国チョクルダ近郊のエコトーン(生態系遷移域)のタイガ・ツンドラ境界域にあるコダックサイト(北緯70.564°、東経148.267°、標高7m)において熱・炭素収支観測を開始した。エコトーンは地球温暖化に伴う環境変化のシグナルが出やすい領域の一つである。同地域における熱・炭素収支に対する気象条件の影響についての解析から同地域の地表面-大気相互作用の素過程を明らかにすることを本研究の目的とする。
2.観測サイトと手法
2.1 観測サイト
コダックサイトは、シベリア北東部の北極海に流れるインディギルガ川流域(流域面積:324,244km2の支流域に位置しており、カラマツのあるマウンド状の少し高い地形とミズゴケがある少し低い湿地が混在している。年平均気温は-13.4℃、平均年降水量は200mm(1979年~2008年, BMDS Ver5.0; Yabuki et al., 2011)である。熱・水・二酸化炭素フラックス観測システムは,カラマツが優占している場所の北約200m北の高さ10数cmの灌木があるマウンドの上で、インディギルガ川の支流の東の約200mのところに設置した。地表面は20cm程度の厚さの有機層に覆われ,7月上旬でも土壌層は凍結していた。
2.2 観測手法
熱・水・二酸化炭素フラックス観測システムは,超音波風速温度計(Campbell Sci. Inc. CSAT3)と赤外線水蒸気二酸化炭素分析計(Campbell Sci. Inc. EC150)により高さ2.55mにおいて10Hzで計測を行い,渦相関法により30分平均のフラックスを算出した。放射収支の測定には4成分(長波・短波の上下)放射計(HukseFlux. NR01;高さ1.37m)を用い,地中熱流量は熱流板(Hukseflux; HFP01)と地温(Campbell Sci. Inc.; 107),土壌水分(Cambell Sci. Inc.; CS616,Sentek;EnviroSMART)の鉛直分布から算出した。その他に一般気象要素として気温,相対湿度,風向風速,気圧,降水量(Vaisala WXT520;高さ1.6m)を測定し(10分平均値を記録),地温と土壌水分についてはマウンドと湿地の両方において測定した。生物季節や地表面状態のモニタリングの為に定点カメラ(GardenWatchCam)を設置して画像を取得している。衛星リモートセンシングの地上検証のための分光放射観測も植生毎に行った。
3.結果
2013年6月23日から10月27日までの解析結果を示す。日平均気温と日平均相対湿度は、それぞれ-17.9~21.9℃と53.9%~90%の間で変動していた。期間中の総降水量は81.6mmで、最大日降水量は23.6mm day-1 であった。日平均風速は0~7.0 m s-1の間で変動していた。夏季には日平均気温と日平均風向の間には明瞭な関係があり、北風成分の時には気温が低く、南風成分の時には気温が高くなっていた。最表層の地温は-2.2~11.1℃の間で変動していたが、深さ0.625mの地温は0℃以下を維持しており、凍結していたと考えられる。深さ0.225mと0.425mにおける地温はそれぞれ7/18と8/18に0度以上になり融解したこの地域の活動層厚は0.25-0.45m(VDM07)とほぼ同程度であった。湿地の深さ0.145mの土壌水分は10月初めまで50%以上であったが、その後は急激に下降したのは、凍結によるものと考えられる。マウンド上の深さ0.335mの7月下旬から急激に上昇し、8月上旬には50%に達したのは、活動層底の氷の融解によるものと考えられる。日平均正味放射量は-65~200 W m-2の間で変動し、地中熱流量はの-39~40 W m-2の間で変動した。日平均潜熱フラックス(期間平均:20.8W m-2)は日平均顕熱フラックス(16.4W m-2)より少し大きかった。日平均正味生態系炭素交換量(NEE)は、8/25までは数日を除いて負の値で、地表面が大気の二酸化炭素を吸収していたが、その後は数日を除いて正の値で地表面から大気に二酸化炭素が放出されていた。期間中の積算NEEは-64g C m-2 day-1で、この値はツンドラで観測された値(-92g C m-2 day-1;VDM07)より吸収量が少なめだが、本研究では生育期間開始(おそらく5月下旬)から6月中旬までの観測値が含まれていないので来年以降の観測結果を用いた検討が必要である。さらに、フラックス観測時のフットプリント解析を行い、測定値に影響した地表面の土地被覆について検討を行う必要がある。
謝辞:本研究はGRENE北極気候変動事業により実施された。
北極域は近年の地球温暖化による全球平均気温の上昇の約2倍の温度上昇が起きている.今後、温度上昇に伴う環境変化が予想される.タイガ域(e.g., Ohta et al., 2008,AFM; Miyazaki et al., 2014, Polar Sci.)やツンドラ域では (e.g., van der Molen et al., 2007, Biogeoscience:以下、VDM07; Parmentier et al., 2011, JGR)、研究例が多数あるが、タイガ・ツンドラ境界域では熱・炭素収支観測研究は殆ど行われていない。
2013年6月から北極域シベリア北東部のロシア連邦サハ共和国チョクルダ近郊のエコトーン(生態系遷移域)のタイガ・ツンドラ境界域にあるコダックサイト(北緯70.564°、東経148.267°、標高7m)において熱・炭素収支観測を開始した。エコトーンは地球温暖化に伴う環境変化のシグナルが出やすい領域の一つである。同地域における熱・炭素収支に対する気象条件の影響についての解析から同地域の地表面-大気相互作用の素過程を明らかにすることを本研究の目的とする。
2.観測サイトと手法
2.1 観測サイト
コダックサイトは、シベリア北東部の北極海に流れるインディギルガ川流域(流域面積:324,244km2の支流域に位置しており、カラマツのあるマウンド状の少し高い地形とミズゴケがある少し低い湿地が混在している。年平均気温は-13.4℃、平均年降水量は200mm(1979年~2008年, BMDS Ver5.0; Yabuki et al., 2011)である。熱・水・二酸化炭素フラックス観測システムは,カラマツが優占している場所の北約200m北の高さ10数cmの灌木があるマウンドの上で、インディギルガ川の支流の東の約200mのところに設置した。地表面は20cm程度の厚さの有機層に覆われ,7月上旬でも土壌層は凍結していた。
2.2 観測手法
熱・水・二酸化炭素フラックス観測システムは,超音波風速温度計(Campbell Sci. Inc. CSAT3)と赤外線水蒸気二酸化炭素分析計(Campbell Sci. Inc. EC150)により高さ2.55mにおいて10Hzで計測を行い,渦相関法により30分平均のフラックスを算出した。放射収支の測定には4成分(長波・短波の上下)放射計(HukseFlux. NR01;高さ1.37m)を用い,地中熱流量は熱流板(Hukseflux; HFP01)と地温(Campbell Sci. Inc.; 107),土壌水分(Cambell Sci. Inc.; CS616,Sentek;EnviroSMART)の鉛直分布から算出した。その他に一般気象要素として気温,相対湿度,風向風速,気圧,降水量(Vaisala WXT520;高さ1.6m)を測定し(10分平均値を記録),地温と土壌水分についてはマウンドと湿地の両方において測定した。生物季節や地表面状態のモニタリングの為に定点カメラ(GardenWatchCam)を設置して画像を取得している。衛星リモートセンシングの地上検証のための分光放射観測も植生毎に行った。
3.結果
2013年6月23日から10月27日までの解析結果を示す。日平均気温と日平均相対湿度は、それぞれ-17.9~21.9℃と53.9%~90%の間で変動していた。期間中の総降水量は81.6mmで、最大日降水量は23.6mm day-1 であった。日平均風速は0~7.0 m s-1の間で変動していた。夏季には日平均気温と日平均風向の間には明瞭な関係があり、北風成分の時には気温が低く、南風成分の時には気温が高くなっていた。最表層の地温は-2.2~11.1℃の間で変動していたが、深さ0.625mの地温は0℃以下を維持しており、凍結していたと考えられる。深さ0.225mと0.425mにおける地温はそれぞれ7/18と8/18に0度以上になり融解したこの地域の活動層厚は0.25-0.45m(VDM07)とほぼ同程度であった。湿地の深さ0.145mの土壌水分は10月初めまで50%以上であったが、その後は急激に下降したのは、凍結によるものと考えられる。マウンド上の深さ0.335mの7月下旬から急激に上昇し、8月上旬には50%に達したのは、活動層底の氷の融解によるものと考えられる。日平均正味放射量は-65~200 W m-2の間で変動し、地中熱流量はの-39~40 W m-2の間で変動した。日平均潜熱フラックス(期間平均:20.8W m-2)は日平均顕熱フラックス(16.4W m-2)より少し大きかった。日平均正味生態系炭素交換量(NEE)は、8/25までは数日を除いて負の値で、地表面が大気の二酸化炭素を吸収していたが、その後は数日を除いて正の値で地表面から大気に二酸化炭素が放出されていた。期間中の積算NEEは-64g C m-2 day-1で、この値はツンドラで観測された値(-92g C m-2 day-1;VDM07)より吸収量が少なめだが、本研究では生育期間開始(おそらく5月下旬)から6月中旬までの観測値が含まれていないので来年以降の観測結果を用いた検討が必要である。さらに、フラックス観測時のフットプリント解析を行い、測定値に影響した地表面の土地被覆について検討を行う必要がある。
謝辞:本研究はGRENE北極気候変動事業により実施された。