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[ACG37-P04] 近年の北半球猛暑頻度の増加に対する太平洋・大西洋十年規模変動の寄与
キーワード:地球温暖化, 猛暑, 熱波, 太平洋十年規模振動, 大西洋数十年規模振動
北半球夏季陸上における平均的な気温の上昇は,極端な高温イベント(例えば2010年のロシア熱波)の発生確率を高める[1].特に20世紀後半以降は,各大陸において明瞭な昇温傾向が認められ,その大部分は人為的な強制力によるものと考えられる.近年の15年間は,全球平均気温の上昇は停滞傾向にある[2]一方で,夏季の陸上平均気温はわずかな上昇,猛暑の頻度は明瞭な増加傾向を示す.これらは,近年の全球平均SSTの上昇の停滞からは説明することができない.近年の海盆スケールの海面水温(SST)変動は,太平洋と大西洋で特徴的な空間分布を示す.これらの太平洋・大西洋の十年・数十年規模のSST変動は,大陸上の平均気温や極端な高温イベントに寄与しうる.
大気大循環モデル(AGCM)を用いた過去再現実験と感度実験を通して,近年の猛暑の継続的な増加の要因を特定した.AGCMに観測されたSST,放射強制力(GHG,火山噴火など),土地利用変化を与え,過去63年間(1949~2011年)の再現実験を行う.また,人為的な強制を除いた実験と,さらにSSTから人為的な昇温成分を除いた実験を行うことで,SSTを介さない人為的な寄与,SSTを介した人為的な寄与,自然起源の強制による応答と内部変動の三つに分離する.
AGCMは,観測データが示す1)長期的な猛暑の増加傾向と,2)地球温暖化停滞期の猛暑の増加傾向をどちらもよく再現する.1)にはSSTを介さない人為起源放射強制とSSTを介した寄与が大きい.特に中高緯度ではSSTを介さない寄与が大きく,夏季の陸上平均気温上昇に対する放射強制力の直接効果の重要性を示す先行研究の結果[3][4]と一致する.2)には内部変動の寄与が大きい.近年の太平洋・大西洋SST分布は負のPDO,正のAMOで特徴づけられる.この海面水温分布は,大気の遠隔応答を介してカナダの低温,中緯度北米の高温をもたらす.また,正のAMOと温暖な地中海SSTは,欧州に高温をもたらす.結果として,近年は地球温暖化の停滞期にあるにも関わらず,太平洋と大西洋の十年規模変動の寄与により,北半球中緯度の陸上では平均気温が高く,猛暑頻度が増加している.
近年の太平洋・大西洋SSTの内部変動は,地球温暖化の停滞を通して猛暑の頻度を抑えている一方で,北半球中緯度の猛暑の頻度を増やしている.今後,十年規模変動の位相が変わることにより,全球及び地域的な猛暑の頻度は大きく変わることが示唆される.
References
[1] Watanabe, M., H. Shiogama, Y. Imada, M. Mori, M. Ishii, and M. Kimoto, 2013: Event attribution of the August 2010 Russian heat wave. SOLA, 9, 64-67, doi:10.2151/sola.2013-015.
[2] Watanabe, M., Y. Kamae, M. Yoshimori, A. Oka, M. Sato, M. Ishii, T. Mochizuki, and M. Kimoto, 2013: Strengthening of ocean heat uptake efficiency associated with the recent climate hiatus. Geophys. Res. Lett., 40, 3175-3179.
[3] Kamae, Y., and M. Watanabe, 2013: Tropospheric adjustment to increasing CO2: its timescale and the role of land-sea contrast. Clim. Dyn., 41, 3007-3024.
[4] Kamae, Y., M. Watanabe, M. Kimoto, and H. Shiogama: Summertime land-sea thermal contrast and atmospheric circulation over East Asia in a warming climate. Part II: Importance of CO2-induced continental warming. Clim. Dyn., in revision.
大気大循環モデル(AGCM)を用いた過去再現実験と感度実験を通して,近年の猛暑の継続的な増加の要因を特定した.AGCMに観測されたSST,放射強制力(GHG,火山噴火など),土地利用変化を与え,過去63年間(1949~2011年)の再現実験を行う.また,人為的な強制を除いた実験と,さらにSSTから人為的な昇温成分を除いた実験を行うことで,SSTを介さない人為的な寄与,SSTを介した人為的な寄与,自然起源の強制による応答と内部変動の三つに分離する.
AGCMは,観測データが示す1)長期的な猛暑の増加傾向と,2)地球温暖化停滞期の猛暑の増加傾向をどちらもよく再現する.1)にはSSTを介さない人為起源放射強制とSSTを介した寄与が大きい.特に中高緯度ではSSTを介さない寄与が大きく,夏季の陸上平均気温上昇に対する放射強制力の直接効果の重要性を示す先行研究の結果[3][4]と一致する.2)には内部変動の寄与が大きい.近年の太平洋・大西洋SST分布は負のPDO,正のAMOで特徴づけられる.この海面水温分布は,大気の遠隔応答を介してカナダの低温,中緯度北米の高温をもたらす.また,正のAMOと温暖な地中海SSTは,欧州に高温をもたらす.結果として,近年は地球温暖化の停滞期にあるにも関わらず,太平洋と大西洋の十年規模変動の寄与により,北半球中緯度の陸上では平均気温が高く,猛暑頻度が増加している.
近年の太平洋・大西洋SSTの内部変動は,地球温暖化の停滞を通して猛暑の頻度を抑えている一方で,北半球中緯度の猛暑の頻度を増やしている.今後,十年規模変動の位相が変わることにより,全球及び地域的な猛暑の頻度は大きく変わることが示唆される.
References
[1] Watanabe, M., H. Shiogama, Y. Imada, M. Mori, M. Ishii, and M. Kimoto, 2013: Event attribution of the August 2010 Russian heat wave. SOLA, 9, 64-67, doi:10.2151/sola.2013-015.
[2] Watanabe, M., Y. Kamae, M. Yoshimori, A. Oka, M. Sato, M. Ishii, T. Mochizuki, and M. Kimoto, 2013: Strengthening of ocean heat uptake efficiency associated with the recent climate hiatus. Geophys. Res. Lett., 40, 3175-3179.
[3] Kamae, Y., and M. Watanabe, 2013: Tropospheric adjustment to increasing CO2: its timescale and the role of land-sea contrast. Clim. Dyn., 41, 3007-3024.
[4] Kamae, Y., M. Watanabe, M. Kimoto, and H. Shiogama: Summertime land-sea thermal contrast and atmospheric circulation over East Asia in a warming climate. Part II: Importance of CO2-induced continental warming. Clim. Dyn., in revision.