日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW07_29AM1] Insight into change and evolution in hydrology

2014年4月29日(火) 09:00 〜 10:45 511 (5F)

コンビーナ:*谷 誠(京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻)、松四 雄騎(京都大学防災研究所 地盤災害研究部門 山地災害環境分野)、野口 正二(森林総合研究所)、中北 英一(京都大学防災研究所)、座長:野口 正二(森林総合研究所)、谷 誠(京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻)

09:00 〜 09:15

[AHW07-01] 温帯ヒノキ林における蒸発散量の年々変動とその決定要因の解明

*鶴田 健二1小杉 緑子1高梨 聡2谷 誠1 (1.京都大学大学院農学研究科、2.独立行政法人森林総合研究所)

キーワード:蒸発散, 年々変動, 乱流変動法, 多層モデル, ヒノキ林

1.背景 森林の蒸発散は流出量ひいては水資源量に影響を及ぼす主要な要素である.近年,各地で報告されている年平均気温の上昇や降水特性の変化が蒸発散量に及ぼす影響を評価するためには,長期で蒸発散量の計測を行い,その変動要因を明らかにしておく必要がある.そこで本研究では,日本の主要な森林タイプであるヒノキ林において乱流変動法による蒸発散量の計測を7年間継続して行い,その年々変動の変動幅を定量化するとともに,多層モデルを用いることで蒸発散量の変動要因を特定した.2.方法 試験地は滋賀県南部に位置する桐生水文試験地である.本試験地は林齢約50年生,樹高約19 m,葉面積指数約4.5?5.5のヒノキ林で覆われている.試験地内に設けられた微気象観測タワーを使用して林冠上の気象観測を行うとともに,乱流変動法により林冠上の顕熱・潜熱フラックスを計測した.エネルギーインバランスの補正を行うために,ボーエン比に応じて顕熱・潜熱フラックスの補正を行った.潜熱フラックスの欠測値は,有効エネルギーと潜熱フラックスの関係を用いて補完した.雨量の観測は試験地内の露場において行った. 蒸発散量の年々変動の決定要因を特定するために,多層モデルを用いた解析を行った.多層モデルには放射伝達モデルや光合成・蒸散モデルなどのガス交換に関わる各種サブモデルが含まれ, 林冠上の気象要素を入力環境変数として,植生内の気象要素の鉛直プロファイルおよび植生‐大気間の顕熱・潜熱・CO2フラックスを求めることができる.モデル中のパラメーターは本試験地おける個葉のガス交換測定などを基に決定した.なお,解析期間は2001年~2007年である.3.結果と考察 7年間で蒸発散量は2004年が780 mm year-1で最も大きく,2001年が715 mm year-1で最も小さかった.蒸発散量の7年平均は743 mm year-1となり,最大で75 mm程度の年々変動が確認された. 多層モデルを用いて蒸発散量の再現計算を行ったところ,蒸発散量の日変化および7年間の年々変動を良好に再現することができ,モデル構造とパラメタリゼーションは妥当であると考えられた. 蒸発散量を蒸散・遮断蒸発・林床面蒸発の要素別に分離評価したところ,気象条件に対応した各要素の年々変動が認められた.降水量が少なかった2001年や2002年は遮断蒸発が少なく,蒸散が多かった.一方で,降水量が多かった2003年や2006年は遮断蒸発が多く,蒸散が少なかった.2004年は遮断蒸発・蒸散ともに多かった.林床面蒸発は蒸散・遮断蒸発に比べて量的に小さく,年々の変動幅も小さかった. 7年間のうち,対照的な2年(年蒸発散量計算値が最大となった2004年および最小となった2003年)の蒸発散量の季節変化を調べたところ,蒸発散量は6月~8月の夏季に平均値からの差が大きくなっていた.蒸散は大気飽差や日射量が大きいほど増加する傾向にあり,夏季に大気飽差や日射量が小さかった2003年は蒸散量が小さく,大気飽差や日射量が大きかった2004年は蒸散量が大きかった.林床面蒸発にも同様の傾向が認められた.また,遮断蒸発は降水量に対応した季節変化を示した. 以上のことから,蒸発散量の年々変動は気象要素の変動で概ね説明可能であり,蒸散・遮断蒸発・林床面蒸発の気象要素に対するそれぞれ異なる応答の違いにより生じているものと考えられた.