日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW07_29AM2] Insight into change and evolution in hydrology

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 511 (5F)

コンビーナ:*谷 誠(京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻)、松四 雄騎(京都大学防災研究所 地盤災害研究部門 山地災害環境分野)、野口 正二(森林総合研究所)、中北 英一(京都大学防災研究所)、座長:中北 英一(京都大学防災研究所)、小杉 賢一朗(京都大学大学院農学研究科)

11:18 〜 11:36

[AHW07-08] 湿潤温暖地域におけるロックコントロールおよびはげ山と浸透水の排水システム

*飯田 智之1 (1.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

キーワード:浸透水, 排水システム, ロックコントロール, はげ山, 地盤構造, 水文地形学的相互作用

日本のような湿潤で温暖な気候下では、地形や地盤(土層・風化層)だけでなく、植生特に樹木が重要な役割を果たすことで、豪雨時の安定的な排水システムが維持されている。長期的に見た場合、そこでは、地形・地盤・樹木・浸透水がそれぞれ直接的・間接的に水文地形学的な相互作用を及ぼしあっている。排水システムの中で、透水性と保水性を支配する地盤の大小の間隙は特に重要である。洪水時に重力水の主要な排水ルートとなる水みち(パイプ)は、連続した大間隙である。また、小間隙に保持されていた毛管水は、無降雨時に樹木の成長に利用される。このような大小の間隙や水みちの生成には、物理的風化作用や化学的風化作用よりも、むしろ生物的風化作用が大きく寄与している。すなわち、樹木をはじめとする植生や地中の小動物は、それぞれの生活に快適な環境をみずから実現することで、無機的で硬い土層を有機的で軟らかい山地土壌へと変化させている。安定した排水システムは生物にとって快適な環境のひとつと推定されるが、降雨条件によって以下のように変化する。1) 通常の豪雨時:排水システムは安定しており、降雨を浸透水に変換してスムーズに系外へと排水する。2) 異常な豪雨時:地下水位上昇や水みち閉塞に伴う間隙水圧上昇により斜面崩壊が発生して、排水システムが部分的に破壊される。しかし、その後長い時間をかけて植生や土層が回復することで、排水システムも徐々に回復する。これは正のフィードバックと呼ぶことができる。この植生や土層の回復には、植生の生育に適した湿潤温暖気候が大きく寄与している。そのため、自然のままでは、崩壊面が拡大して山地が全面的に裸地化することはない。3) 森林破壊後の異常な豪雨時:人間により、森林伐採だけでなく、根株の掘り起こしなど、樹木の根茎まで収奪して、土層全体を撹乱するような徹底した森林破壊がなされた場合には、花崗岩や第三紀層など地質によっては、正のフィードバック作用の臨界点を超えて負のフィードバック作用が働くようになる。その結果、山地の裸地化が一方的に進行し、もはや自然の作用では植生や土層が回復することができなくなる。これが、20世紀後半の比較的最近まで、日本各地で見られた“はげ山”である。そこでは、当然安定した排水システムも無くなるので、豪雨時には表面流が増加することで洪水が頻発して土砂流出も激しくなる。森林からはげ山、あるいは、はげ山から森林への過渡的状況では、斜面崩壊が多発する。 以上のような、降雨の排水システムは、水文地形学的な斜面発達の一環として形成されるが、それには基盤岩の地質が大きく影響しており、地質ごとに独自の排水システムが形成されると推定される。一種のロックコントロールである。 そのような観点から、本研究では、花崗岩と花崗せん緑岩という対称的な2種類の地質からなる山地における、風化・斜面崩壊・はげ山・地形変化と排水システムの相互作用について比較検討する。