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[AHW26-02] 東京湾岸埋立地地下ボーリングコアの塩化物イオン濃度(千葉県浦安市)
キーワード:沖積層, 塩化物イオンプロファイル, 埋没谷地形
はじめに 2011年東北地方太平洋沖地震では東京湾岸埋立地は大きな液状化―流動化被害を受け,沈下のために深い基礎を持つ構造物との段差から上水道管や下水道管などのライフラインの断絶がおこった.井戸を持つ町内会では,震災後すぐに地下水の使用をはじめることができ,震災に対する井戸の重要性を認識することができた.このため,本研究では東京湾岸地域の浅層の塩化物イオン濃度を測定し,井戸作成のための基礎資料とすることを目的とした.本研究には,千葉県による平成23年度東日本大震災千葉県液状化調査業務で掘削したボーリングコアを使用した.分析方法 コアの中心部を15g程度採取し含水率を測定後,乾燥試料2.500gを測りとり50mLの蒸留水を加え1時間振とうによって溶出をおこなった.この溶出液を遠心分離後,孔径0.2μmのフィルターでろ過しこれを検液とした.この検液をイオンクロマトグラフィーで分析測定をし,含水率・希釈率からコア中の間隙水の塩化物イオン濃度を計算し求めた.結果調査地点の地下には後期更新世の最終氷期にできた埋没谷が存在すし(石綿,2004),その谷の上位に沖積層が重なる.調査地点の標高約-57.3mに沖積層の基底が存在し,標高約1.1mに沖積層の上端があり,その上位に人工地層が重なる. コアの間隙水中のCl-濃度の結果は,標高-57.2~-20.1mまでの層準では下部から上部にかけて約60mg/Lから1300mg/Lへと上方に向かって濃度が上昇する.この上位の標高-19.1~-9.0mの層準では2000mg/Lを超える急激に濃度の高い層準となる.最も濃度の高い層準は,標高-12.4mの8300mg/Lであり,これは海水のCl-濃度の約40%である.この高濃度層準の上位の層準である標高-8.3~-7.03mは930~570mg/Lであった.そして,これ上位の層準および人工地層は170mg/L以下であった.考察 浦安谷の沖積層中の珪藻化石群集によると(石綿,2004),標高-20~-30mの層準が海生種90%以上であり,堆積年代も6000年~3000年前となっている.この層準は高海面期の堆積物のため間隙水中の塩化物イオン濃度も高いことが予想されたが,本研究の結果からコア中の高濃度層準は標高-19.1~-9.0mであった. この沖積層の間隙水中の塩化物イオン濃度の分布は,吉田ほか(2012, 2013)の千葉市美浜区稲毛海岸(地質環境研究室敷地)の沖積層コアでも認められている.加えて,この千葉市の調査地に更新統・沖積層・人工地層にそれぞれスクリーンを設けた観測井の地下水位から,人工地層から沖積層へ,更新統から沖積層へ地下水流動が起きるポテンシャルを持つことが報告されている.千葉市コアや浦安市コアにおけるこの塩化物イオンが高濃度になる層準は,海食台のような沖積層の埋没谷の谷幅が急に拡大する層準である.埋没谷の境界を挟んで更新統から沖積層へと流れる地下水流動によって,沖積層中の間隙水がフラッシングを受けていると考えられ,谷幅の急に拡大する層準ではボーリング地点と谷の境界までの距離が物理的に遠いため,更新統からのフラッシングを受けにくく高濃度の層準が存在すると考えることができる.浦安谷の沖積層においても,標高-20m以浅は埋没谷の谷幅が急拡大する層準であり,堆積環境よりも埋没谷の地形が沖積層の間隙水中の塩化物イオン濃度を支配する可能性が高いことを示した.引用文献石綿しげ子(2004),東京湾北部沿岸域の沖積層と堆積環境.第四紀研究,43, 297-310.吉田剛ほか(2012),千葉県における東京湾岸の埋立地層・自然地層の地下水位と地下水中の塩化物イオン濃度,第22回環境地質学シンポジウム論文集吉田剛ほか(2013),千葉県における東京湾岸の埋立地層・自然地層の地下水位と地下水中の塩化物イオン濃度,日本地球惑星科学連合2013年大会要旨