日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW26_1PM2] 都市域の地下水・環境地質

2014年5月1日(木) 16:15 〜 17:00 424 (4F)

コンビーナ:*安原 正也(独立行政法人 産業技術総合研究所)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、浅田 素之(清水建設株式会社)、滝沢 智(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻)、鈴木 弘明(日本工営株式会社 中央研究所 総合技術開発部)、座長:林 武司(秋田大学教育文化学部)

16:30 〜 16:45

[AHW26-09] 新宿区おとめ山公園湧水の地下水位-流量モデルと地下水位の大気圧応答

*高野 雄紀1芳村 圭2村上 道夫3上村 剛史4 (1.東京大学理学部地球惑星物理学科、2.東京大学大気海洋研究所、3.東京大学生産技術研究所、4.海城中学・高等学校)

キーワード:湧水, 地下水位, タンクモデル, 大気圧応答, 大気潮汐

東京都新宿区下落合二丁目にあるおとめ山公園の湧水(おとめ山湧水)は東京の名湧水57選の一つである.近年,おとめ山湧水の減少や枯渇が問題となっている.湧水量の長期的な変化を把握することを目的として,海城学園地学部では流量と地下水位を2011年から継続的に測定している.本稿では,この観測データを用いて行った地下水位と湧水の変動要因についての検討と,地下水位と流量を同時に表現するモデルの作成した結果を報告する.おとめ山公園は武蔵野台地東部の落合崖線に位置しており,周辺の地層は地下に進むにつれ関東ローム層,下末吉ローム層(凝灰質粘土層),武蔵野礫層,東京層(砂層,粘土層),東京礫層の順に分布している.佐藤ら(2013)の調査から,おとめ山湧水は武蔵野礫層を帯水層とし,その集水域面積は10haから100ha程度であると推定される.湧水は公園内の水路を流れた後,最終的におとめ山公園の南を流れる神田川に合流する.流量は水路の途中の段差を下る水をバケツに集めることで測定した.1年以上に渡る観測の結果,平均流量は20L/min程度であると分かった.降水に対し流量は強く応答し,2012年4月2日から3日までの総雨量118mmの降水イベントでは,流量は35時間で4L/minから50L/minへと上昇した.地下水位(井戸水位)は,おとめ山公園内にある2つの井戸(No.1,No.2)と,おとめ山公園から北0.5kmの井戸(目白の井戸,新宿区下落合三丁目)の3地点で測定した.井戸水位は自記圧力計を用い,井戸内の水圧と大気圧を同時測定することで算出した.おとめ山公園内にある井戸No.1とNo.2は同じ標高(T.P.26m)にあるが,帯水層が異なる.No.1の帯水層は武蔵野礫層で井戸水位はG.L.-6mから-5m程度であるのに対し, No.2の帯水層は東京礫層で井戸水位はG.L.-9.3mから-9.5m程度である.いずれも帯水層より井戸の水面が高いため被圧帯水層である.目白の井戸は標高はT.P.34mで,井戸水位はG.L.-5mから-4m程度である.よって目白の井戸の水は関東ローム層を帯水層とする自由地下水と考えられる.おとめ山No.1と目白の井戸は降水に対し同様の変化をした.おとめ山No.1とNo.2の井戸水位には半日周期の変動があることが分かった.そこでNo.1の井戸水位に対し無降水期間(前2日の降水量が0である日)の日コンポジットを計算した.大気潮汐により日本時間の午前9時頃と午後9時頃の2回極大値をとる大気圧に対して,井戸水位が逆位相で変化するのが見られた.このような井戸水位の気圧応答は,帯水層の間隙水圧が大気圧の影響を受けず一定であるときに,大気圧に釣り合うように井戸水位が減少することで生ずる(Rojstaczer,1988など).大気圧応答が明瞭に見られた理由として,井戸の口が開放されていて大気圧が孔内に伝わる,井戸径が51mmと小さいため井と帯水層との水のやり取りが少なくて済む, 帯水層の武蔵野礫層の上に下末吉ローム層があり透気性が小さいなどが挙げられる.これに対し目白の井戸には大気圧応答が見られなかったが,これは関東ロームの上には透気性の低い地層が存在しないためだと考えられる.湧水量の変化の把握には精度の高いモデルが必要である.佐藤ら(2013)は2段タンクモデルを用いて降水量から流量の予測を行ったが,このモデルは地下水位を利用していない.そこで,我々は流量だけでなく地下水位を表現するモデルを作成した.このモデルは3段タンクモデルを基礎としており,1段目が中間流出を表し,2段目のタンクは鉛直方向への浸透のみで流出孔はなく,3段目は地下水位に対応している.このモデルのパラメータを流量と大気圧の影響を受けず流量との相関が強い目白の井戸のデータに対し,Duan et al. (1993)によるSCE-UA法を用いて推定した.得られたパラメータを用いて予測実験を行ったところ,実測値をよく再現した.